頭部外傷

 分かり易い頭部外傷とは、飼い主の眼前で使役していた鷹が建物などに衝突したという稟告(りんこく)が聴取された時を言うのですが、非常に残念な事に、その様なトリ達は例外無く即死してもおかしくない速度で衝突してしまっているので、診療の対象となる事は稀です。

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(図1.ガードレールとの接触事故により目の周囲が腫脹したオオタカ(左、中央)。この目の腫れは、治療により翌日には消失した(右)。事故直後は意識が無く、その後蘇生した珍しい症例である)

 

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目の異常

 猛禽類で遭遇する眼の異常は、外傷によるものが最多です(1,2)。眼球は、大きく前眼部と後眼部に分ける事が出来ますが、ヒトが肉眼で観察出来るのは前眼部のみであり、後眼部の異常を見つけるには専用の検査機器が必要です(眼底検査、眼圧検査など)

塗料
(図1.このハリスホークは、衝突によって角膜表面に塗料が付着している)

 

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毛引き症

 毛引き症には、トリ達が自ら羽毛を引き抜こうとする行為だけではなく、羽毛や皮膚の異常を気にして(羽毛や自身の体を)かじろうとしたり自傷行為に及ぶ場合が含まれます。
 猛禽類の毛引き症は主としてハリスホークに認められ、ある報告では全体の患者の81%がこの鳥種によって占められていました(1)。

 (猛禽類の)毛引き症には、知能の高いトリ達に見られる行動上の問題(“退屈による問題行動”)である場合と、他の疾病や外傷等の異常によって発生している“症状”である場合があります。

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(図1.毛引き症のハリスホーク。左;両親と兄弟から離され、訓練の為に繋留される様になった頃から毛引き症が始まった。両腿には羽毛が無い。右;半年後、実猟を経験し、“ひとりで”遊ぶ事を覚えた頃から、羽毛が戻る様に成った)

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爪傷ないし咬傷

 英語で、特に鷹同士のケンカの事を“Crabbing”と言います(1)。この英単語は一般に“カニ漁”、つまり、モリで突いた傷の事を表しているので、鉤爪による爪傷の俗称が転じた表現であった事が分かります。

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(図1.猛禽同士のケンカ傷は目立たず、トリ達もヒトの見ていない所でしか異常を表していないかもしれない)

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嘴の損傷

 嘴は、一個のカルシウムのカタマリなどではなく、血の通った構造をしています。嘴の表面を構成している角質層(ケラチン)は、骨との間にある真皮から成長したシート状の構造物です(1)。真皮には血管も神経も存在するので、嘴を負傷したトリ達の中には出血が認められる事があり(図1)、痛みや細菌の汚染に悩むトリ達が現れます(図2)。

ミンク咬傷
(図1.ミンクの咬傷により上嘴から出血しているハリスホーク。細菌による汚染を防ぐ為に、抗生物質による治療が必要である)

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翼の骨折

 “翼の骨折”とは、翼を構成する主要な骨である上腕骨と、橈骨ならびに尺骨の骨折をいいます。
 飼育されている猛禽類ではこれらの部位の骨折に遭遇する事は稀なので、ここで紹介する症例は全て野生の猛禽類になります。

チュウヒ
(図1.畑の中で見つかったチュウヒ。強い風の吹いた日の翌朝には、野生の猛禽類が“落ちて”いる事がある)

 

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烏口骨の骨折

 烏口骨は、前肢帯を構成する3つの骨の内の一つであり、哺乳類では見られない鳥類独自の骨です。

ハヤブサ
(図1.烏口骨骨折の見つかったハヤブサ。右翼の下垂と触診による烏口骨のある部位でのクリック音が明らかである)

 

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翼の軟部組織の障害と脱臼

 特に野鳥が、翼に骨折の見つかる状態で保護収容された場合、その骨折はおそらくその部位に強力なエネルギーが加わって生じたものであるはずなので、そのエネルギーは(100%骨折を起こした部位で吸収されて、その骨のみを折ったのではなく)同時に周辺の筋肉や腱、靱帯といった軟部組織にも拡散し、吸収されています。

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(図1.橈骨に骨折の見つかったオオタカのレントゲン像。レントゲン写真からは、橈骨の骨折のみが異常であるかの様に見える)

 

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鉤爪の欠損

 ハリスホークやオオタカでは珍しい事ではありませんが、獲物やグローブをしっかりとつかんでいたトリ達の第1趾あるいは第2趾の爪が、とれてしまう事があります。

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(図1.このオオタカは、自らグローブを強く握りしめていたので、飛翔訓練中に飼育者の投擲行為にともない第1趾の爪が抜けてしまった)

 

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趾部の切断

 野生の猛禽類や鷹狩りに使用されているトリ達にとって、足の指の切断は“最後の手段”なので、術後、その個体が生活していく可能性が高い時にのみ実施し、それ以外のケースでは安楽死が推奨されます。

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趾骨の骨折

 趾骨とは、足の指の骨の事です。

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(図1.趾骨骨折の例。外観が一見したところ正常に見えたとしても、骨が無事であるとは限らない)

 

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手根中手骨の骨折

 成書にある手根中手骨の骨折とは、主に野鳥で遭遇するタイプの骨折であり、“難しい骨折”、つまり治療成績の良くない骨折の一つであるとされています(1)。

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(図1.ノスリの手根中手骨の骨折。野鳥におけるこの部位の骨折は、建物への衝突などの強力なエネルギーが加わった結果による事が多いので、骨のみならず周辺の組織が強い損傷を受けている事が多い。“強い損傷”とはすなわち、開放骨折(複雑骨折)の事である。症例は、大中手骨の粉砕骨折(骨折部が複雑に粉砕した骨折のこと。いわゆる複雑骨折は、骨折端が皮膚を突き破り空気に触れている骨折を言う)と、小中手骨の単純骨折に加え、手根関節の(おそらく)関節内骨折を起こしている)

 

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卵塞

 猛禽類はあまり卵を産まない鳥種なので、産卵に関連するトラブルに遭遇する事は稀です。

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(図1.猛禽類は、体格に対して過大に見える卵であっても産卵出来る事の多い鳥種である。ただし、肥満鳥や、カルシウムやビタミンDの摂取状況に不備のあるトリ達では、難産になる事がある。このハリスホークには、十分なカルシウムの動員が起きている証拠である骨髄骨が観察されないので、低カルシウム状態による難産が起きていると考えられる)

 

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Wing Tip(翼端浮腫)

 この疾病は、正式な名称を“Wing tip oedema and dry gangrene syndrome(翼の先端(翼端)に生じる浮腫と乾性壊疽の症候群)”と言います。おそらく同一の英名の邦訳と考えられる呼称には、“翼先端の浮腫および乾壊痕症候群(1)”、“浮腫および乾性壊疽症候群(2)”があります。“dry gangrene(乾性壊疽)”という表現は近頃では使わないので、最近の文献では“Wingtip oedema and necrosis syndrome(WTONS)(翼端に生じる浮腫と壊死の症候群)”という病名が使われています(3)。
 いずれにせよ、こういった長い病名は使い難いので、一般的な呼称としては“Wing tip oedema(翼端浮腫)”が、よく用いられている様です(4)。ただし、日本人には“oedema(浮腫)”という英語自体馴染みが無く、何を言われているのか分からなくて普通なので、当院ではこれを更に短くして“Wing Tip(翼端浮腫)”と呼んでいます。読みは“ウイングチップ”、“よくたんふしゅ”です。本邦の猛禽類飼育者の中には、この疾病を“手羽腐れ”、“手羽落ち”と呼ぶ人達がいます。

翼端浮腫の初期病変
(図1.翼端浮腫の初期病変(*)。特徴的な腫脹と水疱の形成が認められる。この腫脹は、指を押しつけるとその形のくぼみが数分残ることから“圧痕浮腫”と呼ばれる)

 

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中毒(重金属中毒)

 一般の飼い鳥、つまり、インコ・オウム類では重金毒中毒の主体は亜鉛中毒に移っておりますが、猛禽類の重金属中毒とは、鉛中毒の事です。

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(図1.カルガモの体表から取り除いた鉛弾。着弾後、鉛弾は衝撃で変形しつつ直進しながら周辺組織を激しく損傷するので、殺傷能力が高いと言われている)

 

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中毒(農薬等)

 農薬とは、枯れ葉剤や害虫や野鼠などを駆除する為の薬品類の事です。
 テキストの時代を遡ればさかのぼるほど、この問題は大きな脅威として取り扱われる傾向があったのですが、現在の我が国では、ポジティブリスト制度(*)の導入以降、農薬による被害は年々小さなモノとなっております。
(*;食品衛生法により、農薬などが基準値を超えて残留する食品の販売、輸入などを禁止している制度。従来のネガティブリストに比べて、より広範囲の農薬等が規制の対象となった。全体に、農薬等の使いすぎや残留を抑止する効果があったと言われている)

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(図1。写真はカワウ。同じ時期に野外で、“動かないトリ”が何羽か、あちこちで保護される事がある)

 

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呼吸器の問題

 臨床上、アスペルギルス症と吸入による中毒を除いてしまうと、呼吸器の問題との遭遇頻度はあまり多くはありません。

 呼吸器の問題の中でも、特に呼吸器系の“伝染病”を実際に経験した事のある猛禽類の飼育者は非常に珍しく、専門書で紹介されている数多の(あまたの)伝染病は、本邦では繁殖施設やショップならば遭遇した事があるかもしれない程度の、非常に稀な疾患群です。

呼吸困難
(図1.この小型フクロウは、入荷直後から呼吸器症状を呈する様に成り、販売される事なく落鳥した。鼻汁は、むしろ後鼻孔(口腔内)から大量に流れ出しているので、口が塞がれ、患者は開口呼吸を行っている。周辺の羽毛の分泌物による汚れにも注目)

 

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口腔内の異常

 口腔内の異常に気付くためには、普段から、“正常”な口腔内の概観について知っている必要があります。

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(図1.左がオオタカで、右がノスリである。舌や粘膜の色調は鳥種によって異なるので、その正常な概観について記憶している必要がある)


 

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排泄物の変化

 猛禽類に限らず、鳥類の排泄物は総排泄口からひとまとめにして排泄される様になっており、その構成成分は、糞便、尿酸、尿から成ります。

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(図1.正常な猛禽類の排泄物。この鳥種は、糞便が他の成分に比べてくっきりと視認出来る事が多い。ハヤブサ類とフクロウ類以外は、排泄物を真下に落とさずに水平方向に向かって飛ばすので、その飛翔距離自体が健康の指標となる。ペットシーツを使用しているので、尿成分は吸収されてしまっている。左の糞便と比較して右の糞便が白っぽいのは、骨(カルシウム)を多く含む食餌を摂ったからである)
 

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消化管の閉塞

 鳥類で消化管の閉塞性疾患があるとしたら、その閉塞部位には、嗉嚢(そのう)、前胃、筋胃、腸(小腸)が候補に挙がります。実際に遭遇するのは、上部消化管(前胃と筋胃を含めた、胃より上方の消化管)が圧倒的であり、それより下方の閉塞は稀です。

嗉嚢部の陥凹
(図1.胃内容を努力して吐き出そうとする時、猛禽類の鎖骨周辺は大きく凹む。慢性的に吐き出せない異物が胃内に存在する時や、胃部に不快感が継続している時に、この症状は継続する。この凹みは、痩せている若い雌のトリ達では日常的によく見かける事がある。こうしたトリ達では“声が変わる”事があるが、それは呼吸器疾患による症状ではない。容積を増した嗉嚢(そのう)や前胃、胃の下垂に伴う食道との接触によって生じている症状である)

 

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吐出と嘔吐

 この2つの用語は、鳥類と哺乳類では異なる使い方をします。
 鳥類医学では、その吐物が口や食道(嗉嚢(そのう))から吐き出された場合を吐出、胃や腸から吐き出された場合を嘔吐と呼びます(1)。
 これらは、疾病名ではなく症状の呼び名です。原因は多岐に渡り、吐き出されてしまえば問題の無いケースから、症状が現れた事自体が深刻である場合まで、様々です。違和感を覚える吐物を見つける事があったら、速やかな来院と検査をお勧めしております

吐物(肉片)
(図1.中毒による嘔吐の際に吐き出された肉片。当該個体が、いつもこういったモノを吐き出す個体なのかどうかでも、評価が異なっただろう)

 

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酸敗嗉嚢(Sour Crop)

 試しに、生きたハトを与えてみる。
 反射的に飛び付いたものの、興奮するでなく、食べようともしない。目の前で羽毛をむしって肉を露出させても・・・駄目。体調が悪いんですね?

 考えられる理由はいくらでもあるけれど、ここで話をするのは酸敗嗉嚢(そのう)というトラブルについてです。

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(図1.“最後の手段”で生き餌を与えてみたものの、全く食べようとしないオオタカ。一見正常の様に見えても、確認作業を怠ると、そのトリを手遅れにしてしまう事がある)

 

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TRD(Tick Related Disease)

 本邦での発生があるのかは不明ですが、マダニが関与するユニークな疾病にTRD(Tick Related Disease)というのがあるので、紹介させていただきます。

 この問題は、飼い主にも容易に見つけられる上に、早期に簡単な処置を行う事で良好な結果に辿り着く可能性が高い(さもなければ急死する危険がある)、飼い主の知識だけがトリ達を救う疾病であるからです

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(図1.イヌから得たマダニの標本(左)。これだけの大きさの外部寄生虫ならば、飼い主にも容易に発見可能である。付着したばかりのマダニは、ごく小さいサイズをしている。鳥類から見つかるマダニも同様の形態をしているが、別種とされている(右;野生のオオタカに咬着していたマダニ))

 

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