血液検査の読み方

 ここで言う血液検査とは、血液生化学検査の事です(図1)。
 世間一般にある診療施設で行われている血液検査には、ひとつの特徴があり、さらに鳥類の血液検査という事になりますと、哺乳類の診療には無い独特な背景が加わります。

 来院していただいた飼い主の皆様には、簡単に、口頭でかみ砕いた話をするか、結論のみお知らせするように、できるだけ簡略な説明を心がけておりますが、それだけでは逆に不安を感じるという場合も当然あると思いますので、以下の様な詳しい解説も用意してみました。

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(図1.血液生化学検査の例。採血量に応じて、検査の項目数は増減する)


 哺乳類、特にヒトや犬猫の診療に用いられる血液生化学検査の各種パラメータの内、全く使用されない有名なパラメータ、あるいは評価が異なるパラメータは、いわゆる“肝腎”に集中しています。
 例えばアルブミンのように、鳥類のサンプルだと通常の方法では測定出来ないパラメータというのもありますが、ここでは省きます。同様に、鳥類では有効な血液検査の評価方法が無い膵炎の診断についても、省略します(→血中のアミラーゼとリパーゼの濃度にどの様な意味があるか不明;生検によってのみ診断する事になっている)
 細かく調べて行くと、他にも流用が出来ないパラメータというのが現れてまいりますが、よく犬猫の診療で用いられる上記以外のパラメータ(よく見かける検査項目)については、おおよそ、同じ目的で検査を行い、解釈されているという理解で、問題ありません。
 肝臓あるいは腎臓の評価に関する各パラメータの解説は、以下の通りです。

ALT(GPT);哺乳類では、肝細胞が障害を受けると血液中に放出されるとされている酵素。ASTよりも肝特異性が高いとされるパラメータ。ただし、鳥類の多くでは、この酵素が肝臓に分布しておらず、計測された数値の上昇が、肝臓の障害を示しているとは限らない。現在では、ほとんどのテキストに参考値が記載される事も無くなってきている。例外として、猛禽類、鶏、アヒル、オキナインコでは、肝臓に異常があるとALTが上昇する事がある。その為、猛禽類について書かれたテキストでは、現在でも参考値が記載されているのを目にする。

AST(GOT);哺乳類で、肝細胞が障害を受けると血液中に放出されるとされている酵素。元々、肝特異性の低いパラメータであるが、鳥類においてもこの酵素は肝臓に分布しているので、肝障害の指標として用いられている。ただし、このパラメータのみでは、正確に肝臓に障害があるのかを評価する事は難しいので、CKやLDH、総胆汁酸など、他のいくつかの項目についても同時に調べる必要がある。

ALKP;哺乳類において、肝障害や胆道疾患に関連して上昇するとされている酵素。鳥類では、この酵素は骨芽細胞の活動の増加に伴い上昇する酵素なので、成長期のトリ達や骨折の治癒過程などで上昇する。つまり、特殊な疾患(くる病など)の診断の参考にする事はあっても、肝疾患を知るためのパラメータとしては通常は用いられていない。ただし、猛禽類では肝疾患に関連して上昇が認められる事がある

TBIL;血漿中の総ビリルビン。ビリルビンは、哺乳類の赤血球の色素であるヘモグロビンが代謝されて出来た黄色の色素である。本来であれば、この色素は胆道を介して腸管へと排出される。例えば、患者が胆管が閉塞する病気になると体内のビリルビンが過剰になり、皮膚や粘膜面が黄色になる、いわゆる黄疸が観察される様になる。この時、血液中の総ビリルビン(TBIL)を調べると、高値を示す。鳥類の胆汁は緑色をしており、主要な胆汁色素をビリベルジンと言う。ビリベルジンは、哺乳類ではビリベルジン還元酵素の働きによってビリルビンに変換されるのが、鳥類はこの酵素を欠いているので、黄疸がこの生き物で観察される事はない。すなわち、鳥類においてTBILの測定には意義がない。もしも、皮膚が黄色い、あるいは採血した血液サンプルの上清が濃い黄色をしているトリが居たとしたら、それは別な理由による(図2)。具体的には、養鶏用飼料や鳩の餌、猛禽類ならばひよこ食によって、採血した血液の上清が濃い黄色~橙赤色を示している事があるかもしれないが、それらは飼料の影響であって肝疾患ではない。

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(図2.遠心分離が終わった後の血漿分離用チューブ。血液サンプルは、あらかじめ十分な絶食を行った後に採取しているので上清の色が薄い。こうしたサンプルの上清は、飼料中のカロテノイドの摂取によって容易に黄色~橙赤色に変化するので、哺乳類を診察している時の様に黄疸と勘違いしてはならない)

BUN/Cre;哺乳類において、腎障害の存在を教えてくれるパラメータ。鳥類は尿酸排泄型の生物なので、その体内で血中尿素窒素(BUN)は殆ど作られない。同様に、クレアチニン(Cre)も鳥類の体内ではあまり作られていない。これらのパラメータを測定しても、本来低値である上に、腎疾患に関連した上昇が得られるとは限らず、食物の摂取など非特異的な理由による上昇が起こりうる事から、鳥類の診療において、こうしたパラメータは用いられる事が無い

尿酸;鳥類において、腎障害の指標と成り得るパラメータ。鳥類は尿酸排泄型の生物なので、普段から血中の尿酸値がヒトなどと比べると高値を示している場合がある。尿酸値は、トリ達の食物の摂取状況による変動を受けやすく(例えば、肉食や魚食性のトリ達では高値を示す/食後に上昇する/動物性の食餌の摂取によって上昇するなど)、鳥類は内臓痛風の患者であっても生前は尿酸値が上昇していない事が多いなど、検査数値の解釈が難しいパラメータでもある。つまり、尿酸値は高値であるからといっても疾病とは限らず、正常値であるからといってもその患者が健康であるとは限らない。しかし、このパラメータ以外で(少なくとも院内検査の範囲では)、BUNやCreに代わって腎臓に問題がある事を示してくれる検査項目が無い。

 以上のように、鳥類では哺乳類の検査とは異なる常識でもって、検査項目を選択し、解釈を行ってまいります。
 重要な事柄をして“肝腎”という言い方をしますが、鳥類の肝腎は哺乳類の、つまりヒトや犬猫の肝臓や腎臓の血液生化学検査の場合と比べると、やや確度に劣るパラメータしか用意する事が出来ないというのが、鳥類の診療の特徴という事になります。

 さらに、もう一点だけ、注意するべき特徴が、動物病院で行われる血液検査にはあります。
 この問題は、犬猫についても共通ですが、小さな動物で検査を行っていると、割と遭遇する事があります。

 通常、動物病院にある血液検査の機械は、使い捨てのスライドを使用したドライケミストリーと呼ばれている検査方式によって検査を行っています。
 この方法は、あらかじめ目的の化学反応が起きるように特定の試薬が乾燥状態で用意されているスライドに、検体(液体)が添加されると、検体の水分によって、試薬が含まれているスライドの中で反応が進行するという測定になっております。
 そのため、何らかの事情によって(例えば、食欲不振や長時間の輸送による脱水など?)検体の粘性が強く、水分が上手くスライド上に展開しなかった場合、その検査項目が測定不能になってみたり、異常な高値を示す事があります(図1)
 こうした“高値の検体”が得られてしまった場合は、
1)補液を行った後、翌日にでも再度採血と検査を行って血液中に十分な水分が行き渡った状態で再評価を行う。
2)測定方式の異なる検査(外注検査)によって、“正確な”測定値を得る。
3)正確な希釈を行った粘性の低い血液サンプルで再検査を行う。
・・・といった方法で、正しい検査数値を得る事が可能なのですが、鳥類の採血は、あまり頻繁に行う事も、再試が可能なほど十分量を採血する事も難しいので(図3)、実施する事は稀です。

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(図3.ウズラの採血。頸静脈より採血を行っている。目安として、セキセイインコ(体重30g)で0.4ml、オカメインコやウズラ(体重80g-100g)では1ml程度まで採血する事がある。こうした小型の鳥種では、一度採血を行った場合、次回の採血には二週間以上の間隔を空ける様にしている)

 実際の診療において、検査によって高値が得られた患者の飼い主様には、検査の結果が間違っている場合がある事を断った上で、検査の数値が非常に高く患者は危険な状態にあるはずなので、補液を行い、場合によっては入院を勧め、様子を観るという事を実施します。
 結果として、本当に重症(=測定不能なほど高値の検査数値)でなかった場合、その患者は翌日には食欲や元気が改善している事が多く、おそらく最初から本当の測定値は問題のある数値ではなかった可能性が高いのですが、検査数値は正常ないし危険でない範囲まで下がっています。
 一見したところ、こうした患者は速やかに回復したようにも見えるし、中には本当に短時間で回復した重症の患者というのも混じっているはずなのですが、こうした偽重症患者と本当に疾病状態にあった患者を区別する事は至難の業です。


参考文献
ここに書かれた解説は、既に本ブログ内で紹介されている記事から抽出した内容に、いくつか実際の診療の際に行っている説明を加えて再構成したものです。細かな引用元は、そちらの方から孫引いてください。ドライケミストリーの解説は、富士ドライケムの商品解説を参考にしております。こうした検査方式を採用している検査機器は、他社製品の場合もありますが、どこの動物病院でも普遍的に使用されています。こうした話題はそもそも生物の血液生化学検査の元となる正常値の範囲を決める時に、その検査方法の精度に関する問題(○○という測定方式の機械で集めた検査数値は、別の測定方式を採用している機械で同じ事を行った時に、やや異なる傾向を示すかもしれないというような?)として、昔から言われてきた事です。鳥類の診療をしていると、こうした話題について、基本に立ち帰り、最初からやり直す/調べ直すという事が、よく行われます。
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ま、いいじゃないか(^^;

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