Peregrine wasting syndrome

 本疾病は、2014年に英国人獣医師らによって報告された(1)、ハヤブサ(Falco peregrinus)とそのハイブリッドに見つかった炎症性の腸疾患です。
 本邦において、この様な疾病の発生の報告は無いのですが、海外からの輸入個体の中にこうした疾病に遭遇するケースがあるかもしれないので、紹介のみさせていただきます。
 
 この腸炎は3年間で3つの施設から見つかっており、鷹狩りに用いる約30羽のハヤブサ(Falco peregrinus)ならびにペレグリン系のハイブリッドの成鳥が、従来行われてきた治療に反応しない消耗性の症候群をともなう腸炎に倒れました。
 この腸炎の正体はまだ完全には突き止められておりませんが、何らかの感染の後に生じる炎症性腸疾患(IBD)の形態をとる腸炎であると考えられております。

 ヒトで有名なIBDは潰瘍性大腸炎とクローン病であり、この2つは、消化管に異常な炎症反応を生じる事によって慢性の消化器症状を呈します。これらの病気は、厚生労働省より特定疾患に指定されています。よく似た疾病はイヌやネコでも見つかっており、“消化管粘膜の炎症病変を特徴とする特発性で慢性の胃腸疾患群”を炎症性腸疾患(IBD)と呼んでいます。
 ヒトとイヌやネコで見つかっているIBDには、定義等の違いから完全に同一と呼べない要素が多々含まれているのですが、こうしたIBDによく似た慢性消耗性の疾病がハヤブサで見つかったというのが、本症です。

 本症は、ハヤブサとそのハイブリッドに限定的に見つかっています。症例数も多く、その解析の過程でアデノウイルスに微弱な反応があった事から、ウイルスによる被害が仮定されましたが、その後の検査で否定されてしまったので、ウイルス説を支持する有力な証拠はありません。現在考えられて(分かって)いるのは、特に“何”という事のない混交した消化管内の細菌の過剰によって生じる、異常な免疫反応のループによって生じる慢性の炎症性腸疾患らしいという事です。

 本症は、その病理組織学的な所見(部分的な慢性のリンパ球形質細胞性腸炎、腸の絨毛萎縮、腸陰窩の過形成など)や、炎症誘発性サイトカインの検出(高値のIFN-γ、TNF-α、IL-6)などが、ヒトのIBDに似ているという結論に至ってはいるのですが、鳥類のIBDには哺乳類と異なる病態生理が存在し、TGF-βが関与しないメカニズムの存在か、線維症を促す別の調整機能の存在の可能性が示唆されるなど、不明な点が数多く残っています。

 罹患鳥には、一般状態の悪化、(過食状態であるにもかかわらず生じる)体重減少、餌鳴き、粘液様の下痢、(脚部、爪、ろう膜の)退色、多飲、(食餌の)吐出などが観察されます。そして多くの場合、細菌培養に基づいた抗生物質治療、(輸液ならびに栄養補充による)積極的な支持療法を行うにもかかわらず、患者は死の転帰をたどります。

 この疾病を完治させる方法は、現在のところありません。ヒト同様、生涯の投薬を必要とする薬剤の使用が検討されましたが、結果にはバラツキがありました。

参考文献
1) Richard Jones et.al., Wasting Syndrome in Captive Peregrine Falcons (Falco peregrinus), Veterinary Conference, Doha January 2014
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わたらい先生

Author:わたらい先生
ま、いいじゃないか(^^;

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