鳥類のマイコプラズマ感染症 (Avian Mycoplasmosis)

 鶏病では“鶏マイコプラズマ(Avian Mycoplasmosis)”という表記が用いられますが(1)、“Avian Mycoplasmosis”にはニワトリ以外の鳥種になると定訳が無いので、本稿では、ヒトでよく見かける“マイコプラズマ感染症”という表記を用いております。
 
 マイコプラズマMycoplasma spp.)は、宿主特異性(種特異性)の強い病原体なので、限られた鳥種で、限られたマイコプラズマ種あるいは株が、偏った病原性を発揮しているのが見つかります。この微生物は、他の因子と協力して病原性を発揮する事が知られている病原体であり(呼吸器のウイルス感染症、ホコリ、アンモニア、他の日和見的な細菌群(大腸菌や様々なその他のグラム陰性菌)との相互作用による)、おそらく単独では無害です。さらに、(その鳥種以外からは見つからないマイコプラズマ種であったとしても)病原性が無いと考えられているマイコプラズマ種というのも存在します。
 以下に述べるのは、各鳥種におけるマイコプラズマ感染症の概説です。マイコプラズマは、養鶏の生産性に対して被害をもたらす有名な微生物ですが、その意義は各鳥種によって異なります。

ニワトリ
 “鶏マイコプラズマ病”は、本邦では家畜伝染病予防法における届出伝染病の一つ(鶏、七面鳥)です(1)。家禽における重要なマイコプラズマは、Mycoplasma gallisepticumM. synoviaeM. meleagridisM. iowaeの4種ですが(2)、後二者M. meleagridisM. iowaeは七面鳥にとって重要なマイコプラズマ種であり、(本邦では七面鳥の飼育があまり盛んではないので)稀にしか扱われません。したがって、本邦の鶏マイコプラズマ病における主要なマイコプラズマは、M. gallisepticumあるいはM. synoviaeの2種という事になります。

 2種のマイコプラズマの内、ニワトリへの病原性が高く(呼吸器の症状がよく現れる)、生産性への影響も大きいと言われているのは、M. gallisepticumの方です。M. synoviaeには、足の問題をよく起こす株が存在します(3)。
 マイコプラズマの主たる臨床症状は、呼吸器症状です。剖検を行うと、肉眼的に気嚢炎が観察されます。これ以外に、関節の病変、気管炎、副鼻腔の腫脹、結膜炎などが見られる事があります(1,3)。
 マイコプラズマは、上気道疾患の原因となる病原体ですが、臨床上の症状が確認出来ない場合であっても採卵数の低下やブロイラー鶏の肥育成績の低下の原因となり、さらには死ごもり卵の増加の原因ともなるので、経済的な損失や生産性への影響が問題視される病原体です(3)。
 いずれのマイコプラズマも、呼吸器のウイルス感染症、ホコリ、アンモニア、他の日和見的な感染性細菌(大腸菌や様々なその他のグラム陰性菌)との相互作用によって、呼吸器の症状が悪化します。この様な状況下ではマイコプラズマは慢性呼吸器疾患の誘因となるので、斃死数が増加します。空気の質と最低換気率を守る事により、慢性呼吸器疾患の防御効果が期待されます(3)。

インコ・オウム類
 インコ・オウム類には、数多くの鳥種が存在します。マイコプラズマはこれらの鳥種達からよく分離される微生物ですが、発症との明確な因果関係が証明されている事例がほとんど存在しません。“明確な因果関係”とはつまり、その病原体と目的の鳥種を用いた感染試験によって、その感染症が再現される事が証明されているという事です。マイコプラズマは宿主特異性の強い微生物なので、偶然見つかっただけのマイコプラズマ種が、他の鳥種に対して病原性を発揮する事が分かっていたとしても、実際に目的の鳥種に感染させて確認してみたら無害だったという事もあり得るのです。
 実際に診療をしていても、この因果関係が分からない鳥種を扱っている事の方が普通なので、インコ・オウム類におけるマイコプラズマは、非常に“悩ましい”微生物であると言えます。

 ほぼ唯一と言っていい、マイコプラズマの感染試験が行われたインコ・オウム類は、セキセイインコです。この鳥種は、M. gallisepticumM. synoviaeに強い感受性を示す事が分かっております(4)。セキセイインコは、家禽以外から見つかったマイコプラズマ種/株に対して、ニワトリを用いた場合よりも高い感受性を示したので、特に家禽以外から見つかったマイコプラズマの感染試験に用いられる代替モデルになりました(4,5)。

 元々、この感染試験は、1,000羽を超えるキエリボウシインコの集団に発生した、斃死率が20%未満の上気道感染症の原因菌を確定する為に行われました(4)。本来であれば、マイコプラズマの宿主特異性の問題から、感染試験はキエリボウシインコを用いて行われるべきですが、金銭的に物理的にその様な実験を実施する事は不可能です。この感染にマイコプラズマが大きく関与している事は、キエリボウシインコ分離株M. gallisepticumを感染させてみたセキセイインコに実験的に気嚢炎が起こせる事により裏付けられておりますが、この時のキエリボウシインコ達からは、M. gallisepticumM. iowae、同定が出来なかったマイコプラズマおよび様々なグラム陰性菌が分離されているので、このアウトブレイクは実際にはマイコプラズマなどの混合感染によって発生し重篤化したケースであると考えられております(6)。
 このマイコプラズマ感染症で見つかったM. iowaeは、本来だと七面鳥に見つかる病原体です。患者(七面鳥の親鳥達)は無症候に過ごし胚の死亡によって孵化率に影響を与えるか、若齢鳥の脚部や椎骨の変形の原因となります(7)。このキエリボウシインコの集団は上気道感染症によって斃死しているので、M. iowaeはあまり関係のない病原体であり、臨床症状として呼吸器症状が現れるM. gallisepticumの方が主要な病原体だったのではないかという仮説までは成り立ちます。ところが、セキセイインコはキエリボウシインコとは別種なので、この感染試験のデータは実際のキエリボウシインコの感染とは異なっているかもしれないという点が考慮され、“マイコプラズマや細菌類との相互関係において、それぞれの正確な役割については解明されておりません”という事が言われてしまい(6)、“分かっているのはセキセイインコだけ”という事が言われます。

 いずれにせよ、これら以外に、事実上セキセイインコとM. gallisepticum以外には、インコ・オウム類に感染し病原性を発揮する事が明らかなマイコプラズマに関する情報は存在しません。最近では、臨床獣医師は、PCR検査によって、患者のマイコプラズマ感染を容易に知る事が出来る様になりました。ところが、検出されたマイコプラズマ種/株が、果たして、ⅰ)無害な片利共生生物、ⅱ)何らかの免疫抑制状態に宿主がある時にのみ被害(呼吸器症状)が現れる日和見病原体、ⅲ)成鳥については無症候に推移し、卵の孵化率や胚死、雛鳥の骨格や関節の奇形に関与する病原体、ⅳ)健康な成鳥に感染し、呼吸器や関節炎の症状を発生させる病原体、のいずれであるのか判別する為の方法や整理された情報が無いので、検出されたマイコプラズマは、獣医師らにとって“悩ましい微生物”になってしまいます。

スズメ目のトリ達
 飼育されているスズメ目のトリ達で、M. gallisepticumに感染する危険があるのは、カナリアキンカチョウ(そして、スズメ目ではないがセキセイインコです。やはり、インコ・オウム類の場合と同様に、これら以外の鳥種(飼い鳥)とマイコプラズマ種に関する感染試験の報告はありません。

 1994 年に北アメリカ東部に生息する野生のメキシコマシコから見つかったM. gallisepticum分離株の感染試験に、いくつかの鳥種が用いられております。この時のアウトブレイクは、2000年にはメキシコマシコの個体数を以前の60%にまで減少させたと言われる程の被害の大きな、つまり強毒株によるものでした(8)。
 この感染症はその後も感染の拡大が続いている、研究の継続が必要な感染症であったにもかかわらず、宿主特異性のある病原体に対してその病原体が見つかった種(野生のメキシコマシコ)を確保して実験を行うというのは倫理的に難しいという事から、妥当な代替モデルが求められました(8)。

 このマイコプラズマ株の感染試験において臨床症状が現れたのは、スズメ目アトリ科のトリ達に限定しておりました(メキシコマシコ、オウゴンヒワ、マツノキヒワ、ムラサキマシコ)。唯一、エボシガラのみが、アトリ科以外の鳥種(スズメ目シジュウカラ科)でこの病原株に感受性を示しております(4羽中2羽)。この感染実験には 2 種の飼鳥が含まれており、旧世界産のスズメ目カエデチョウ科であるキンカチョウと、スズメ目のトリではないセキセイインコが、10 週間に渡って臨床症状を示しました。カナリアは旧世界産のスズメ目アトリ科の鳥種であり、罹患率がメキシコマシコに比べて高くなる以外に有意な違いは見られない、(観察期間は 5 週間で済む)妥当な感染モデルであるとされています(8)。

ハト
 マイコプラズマは、愛好家らによって主要な呼吸器疾患の原因であると考えられていますが、研究者らはマイコプラズマの呼吸器感染症における役割を、いまだに決めかねたままです。ハトのマイコプラズマ種には、病鳥ならびに健康なハト達から分離された数種が存在しますM. columboraleM. columbinumM. columbinasale(9)。

 ハトで見つかるマイコプラズマには、病原性があると言う人達と無いと言う人達がいます。こうした“決めかねている”状況下で、マイコプラズマ症とクラミドフィラ症(オウム病)には臨床上の類似性があるので、経験的にドキシサイクリンやエンロフロキサシンによる治療(本来マイコプラズマに用いる抗菌薬による治療ではなく、マイコプラズマにも有効な抗菌薬を使用した“オウム病の治療”)が推奨されています(9)。

猛禽類
 猛禽類から見つかるマイコプラズマには、家禽とは異なる種が存在しますM. buteonisM. gypisM. falconisなど(10)。PCR検査が実施される様になり、猛禽類からもマイコプラズマがよく見つかる様に成りましたが、ハトの場合と同様に、猛禽類にとってのこれらの微生物の臨床上の意義は明らかにされておりません(9)。唯一、分かっているのは、オオタカのM. lipofaciens ML64 株の感染事例です。この病原体は、1983年にニワトリの眼窩下洞から見つかったマイコプラズマ種であり、オオタカで見つかる独自のマイコプラズマ種という訳ではありません。ML64 株は健康なハンドレアードの雌のオオタカが産んだ無精卵から見つかっており、親鳥から卵に垂直感染した事が分かっております(11)。
 したがって、実際にはこのML64 株がオオタカの卵や雛鳥に影響を及ぼしたという事実は無いのですが、オオタカの有精卵を実験に使用する事が出来なかったので鶏胚を使用してこの株の毒性を確認してみたところ、強い毒性のある株である事が示されたので、猛禽類の卵(胚)への潜在的な危険が言われる様になりました(11)。

 テキスト上、この疾病には、ハトの場合と同様に、マイコプラズマ症とクラミドフィラ症(オウム病)に臨床上の類似性がある事を理由に、ドキシサイクリンやエンロフロキサシンによる治療が推奨されています。

特記事項
PCR検査の普及によって、マイコプラズマはよく見つかる微生物になりました。
この微生物が宿主に対して、常に病原性を発揮するとは限りません。
マイコプラズマは、健康なトリ、病気のトリ、死んだトリのいずれからも見つかるので、そのトリ達の疾病や死亡の原因である場合も、そうでない場合もあります。
“病気のトリ”は、マイコプラズマの感染でない他の理由によって苦しんでいるのかもしれません。

参考文献
1) 鶏マイコプラズマ病(chicken mycoplasmosis), 動物衛生研究所,
http://www.naro.affrc.go.jp/org/niah/disease_fact/t62.html
2) Overview of Mycoplasmosis in Poultry, The Merck Veterinary Manual
http://www.merckvetmanual.com/mvm/index.html
3) 鶏マイコプラズマ症, 日本チャンキー, 2013
https://www.chunky.co.jp/category/note/
4) L. H. Bozeman et.al., Mycoplasma Challenge Studies in Budgerigars (Melopsittacus undulatus) and Chickens, Avian Diseases, Vol. 28, No. 2, pp. 426-434, Apr. - Jun., 1984
5) Mary B. Brown et.al., Mycoplasma gallisepticum as a Model to Assess Efficacy of Inhalant Therapy in Budgerigars (Melopsittacus undulatus), Avian Diseases, Vol. 35, No. 4, pp. 834-839, Oct. - Dec., 1991
6) Avian Mycoplasmosis(Mycoplasma gallisepticum), Iowa State University the Center for Food Security and Public Health, 2007
http://www.cfsph.iastate.edu/Species/non-poultry-birds.php
7) Mycoplasma iowae Infection in Poultry, The Merck Veterinary Manual
http://www.merckvetmanual.com/mvm/index.html
8) Dana M. Hawley et al., Experimental infection of domestic canaries (Serinus canaria domestica) with Mycoplasma gallisepticum: a new model system for a wildlife disease, Avian Pathology 40(3), 321-327, 2011
9) Raptors, Pigeons and Passerine Birds, BSAVA, 2008
10) M. LIERZ et.al., Detection of Mycoplasma spp. in Raptorial Birds in Germany, Raptor Biomedicine III, p25-p33., 2000
11) M. Lierz et al., Pathogenicity of Mycoplasma lipofaciens strain ML64, isolated from an egg of a Northern Goshawk(Accipiter gentilis), for chicken embryos, Avian Pathology 36(2), 151-153, 2007
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ま、いいじゃないか(^^;

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