猛禽類のウイルス感染症

 ここに挙げる各種の感染症は、一般の猛禽類の飼育者がおそらく遭遇する事のない病気であり、獣医師自身も(診療をする機会が無いので)正しく診断が出来るとは限らない病気の群れです。ただし、過去に本邦で発表された著述の中には(おそらくは誤訳によって)、誤解されている不正確な情報も多かったので(1,2)、その情報の修正と猛禽類の感染症の予備知識を提供する目的で、(猛禽類の)感染症について調べようとした時に遭遇するかもしれないいくつかの有名な伝染病について(3)、簡単な解説を行います。
 
高病原性鳥インフルエンザ
 鳥インフルエンザは、A型インフルエンザウイルスの感染によって発生する感染症です。本来、このウイルスは水禽類(水鳥)の腸管内に常在する毒性を発揮しない無害なウイルスなのですが、家禽に感染し数世代を経ると強い病原性を示す様になる事があります。この病原性は、トリに対する病原性の事なのですが、強い病原性に対して“高病原性”という名称が用いられます。ヒトは、このウイルスに対応する受容体を肺の深い所に持っているので、(少しくらいではどうという事はないのだが)高濃度のウイルスに暴露されると、感染が起きてしまう事があると言われています(4)。
 A型インフルエンザウイルスは、ウイルス表面のヘマグルチニン(HA)およびノイラミニダーゼ(NA)の血清型の組み合わせにより、H1からH16、N1からN9亜型に細分されています(5)。高病原性インフルエンザとして有名なのは、H5N1亜型です。家禽で見つかる全てのA型インフルエンザウイルスが高病原性という訳ではないので、それ以外のウイルスは“低病原性”という言い方をされるのですが、その中でも特に(高病原性でない)“H5又はH7亜型のA型インフルエンザウイルス”を、家畜伝染病予防法では“低病原性鳥インフルエンザ”として定義しています。つまり、実際の取り扱いは、“高病原性と低病原性の鳥インフルエンザ”ではなく、“高病原性鳥インフルエンザと低病原性鳥インフルエンザ、および、それら以外の鳥インフルエンザ”という扱いをするのが本邦のルールです。文献によっては高病原性と低病原性の2つのグループにしか分けていない事があるので、注意しなければなりません。
 猛禽類は高病原性鳥インフルエンザ(H5N1亜型)に対する感染リスクの高い種なので、本邦でも野鳥のサーベイランス(調査)の対象となっております(6)。実際に、本邦で高病原性鳥インフルエンザが見つかった事のある種は、オオタカ、ハヤブサ、フクロウ(7)、クマタカ(8)です(注;このトリ達は野鳥だが、飼育されていることのある鳥種について記載している。オジロワシ等は除外した)。さらに、海外の報告では、ハヤブサ、セイカーハヤブサ、クマタカ、チョウゲンボウ、ノスリ(おそらく、ヨーロッパノスリ)、オオタカ、ハイタカからもH5N1亜型が見つかっています(9)。韓国では、このウイルス亜型によって死亡した野生のワシミミズクの報告もあります(6)。その理由はよく分かっていないのですが、数ある猛禽種の中でも実際に感染があった鳥種には偏りがあると言われております(9)。
 飼育下にある猛禽類が、不幸にも高病原性インフルエンザに罹患したという報告は無いのですが、実験的な感染によって、その危険性を指摘する事は可能です。H5N1亜型に強い感受性を示す事が分かっている猛禽種は、ハヤブサとアメリカチョウゲンボウです(3,9)。ここでいうハヤブサは、純粋なハヤブサではなくハイブリッドファルコンです(ジアxセイカー)。いずれの試験でもトリ達は全て死亡するか安楽死させられており、生存の余地はありません。ハヤブサについては、何ら臨床症状を示す事無く突然死するかもしれません(3)。アメリカチョウゲンボウの感染試験では、(感染量に関わらず)感染後4-5日でトリ達には重症の神経症状と(口と総排泄口からの)顕著なウイルスの排出が観察される様に成り、死亡するか安楽死を施す事になりました。病理組織学的な検証により、このトリ達の脳や膵臓には壊死病変が確認されました(9)。
 高病原性鳥インフルエンザは、治療が推奨されない疾病です。本症の予防にはA型インフルエンザウイルスのワクチンが利用可能ですが、血清型の変異速度に対応し切れていないので、有効性は限られたものに成ってしまうと考えられます(3)。

 最近になって(2014年)、日本や韓国で見つかった高病原性鳥インフルエンザ(H5N8亜型)は、今のところ猛禽類への被害の少ない血清型として受け止められています。被害があったのは、クーパーハイタカとシロフクロウのみです(10)。
 高病原性鳥インフルエンザは、流行するウイルス亜型によって死亡する猛禽種が異なるので、被害が大きく感じる年と少ない年というのがあります。

パラミクソウイルス1型感染症(ニューカッスル病)
 鳥パラミクソウイルスには 12 の血清型が存在します(11)。この中で、最も有名なのはパラミクソウイルス1型(PMV-1)です。この血清型は、本邦では“ニューカッスル病ウイルス”の名前で知られている、ニワトリをはじめ多くの家禽や野鳥から見つかる我が国の家禽産業を脅かし続けている主要なウイルスの一つです。インコ・オウム類(PMV-1、PMV-2、PMV-3、PMV-5)や、スズメ目のトリ達(PMV-1、PMV-2、PMV-3)では、複数の鳥パラミクソウイルスの血清型が疾病状態を作る事が知られておりますが、猛禽類やハトで重要なのはPMV-1のみです(1,3,12)。このウイルス感染症は、(おそらく猛禽類でも)高病原性鳥インフルエンザとの類症鑑別が必要です。
 猛禽類の PMV-1 感染症の臨床症状は、ウイルス株の毒性、トリ達の年齢、種、宿主の健康状態によって、無症状から突然死まで非常に広範囲です。多くの症例、特にタカ類とワシ類では、臨床症状は比較的非特異的であり、神経疾患(慢性の中枢神経系の症状)、呼吸器疾患(呼吸困難、結膜炎、鼻汁)、腎臓疾患(多尿)、消化器疾患(緑色下痢便、食欲不振)として影響が現れますが、症状の激しさの程度も様々です。ハヤブサ類では、このウイルスはより重症な神経症状、すなわち、典型的な捻転斜頸、振戦、運動失調(随意筋運動ができないこと。筋肉のバランス異常;協調不能という言い方もします)を引き起こし、通常だと 48 時間以内に死亡します。タカ類とノスリ類では、1 週間食欲不振が続くのみで、その後完全に回復します(3)。
 通常、推奨はされないがPMV-1 に感染した猛禽類には支持療法以外の治療がありません。家禽で用いられている管理方法(生ワクチンの経鼻投与ないし飲水投与)では、そのワクチンでは猛禽類に貧弱なタイターしか産生させません。また、家禽用の生ワクチンは、感受性のある猛禽類には致死的な場合があります。ハト用に販売されている(本邦未発売)、不活化ワクチンを皮下注射すると、より良い管理が行えます。アラブ首長国連邦(UAE)において、ハト用不活化ワクチンがニューカッスル病による損失を減少させる事が、証明されています。中東において、ハヤブサ類から分離されたウイルス株から作られた不活化ワクチンが有効な事が報告されていますが、PMV-1 ウイルスの株間の交差免疫は強いので、市販されているハト用(あるいは家禽用の)不活化ワクチンは信頼に足る製品であると考えられます。食餌として与える家禽を生ワクチンが未接種の飼料にする様にすると、猛禽類の感染の発生率を減少させる事が出来ます。出来るだけ、猛禽類と家禽、ハト、野鳥との近接は避けるべきです(3)。

ヘルペスウイルス
 猛禽類に感染するヘルペスウイルスには、ハヤブサヘルペスウイルス(falconid HV1)、フクロウヘルペスウイルス(strigid HV1)、ワシヘルペスウイルス(acciptrid HV1)という、アルファヘルペスウイルス亜科に分類されている3種のウイルスが知られています。過去の邦訳には、タカヘルペスウイルス(1)、あるいはワシタカヘルペスウイルスというウイルス名が登場する事がありますが、“オオタカやハリスホークに感染して病原性を発揮するヘルペスウイルス”というのは知られておりませんし、上述の3つのウイルス種についてもタカ類(accipiters)には影響を及ぼしません(13)。ハヤブサ類に比較すると、タカ類でヘルペスウイルスによる死亡例が発生するという事は、通常の発生例の範疇では、稀な事です(3)。
 臨床上重要なヘルペスウイルスは、ハヤブサヘルペス(falconid HV1)とフクロウヘルペス(strigid HV1)です。臨床的に正常なワシ類やヘルペスウイルス感染症の症状を呈するワシ類の両方から、ハヤブサヘルペスウイルスとは異なるウイルス(acciptrid HV1)が分離されていますが、重要な臨床的意義は無いものと考えられています(3)。

 猛禽類のヘルペスウイルス感染症の自然発生例は、ハヤブサ、チョウゲンボウ、コチョウゲンボウ、アカガシラチョウゲンボウ、ソウゲンハヤブサ、アメリカチョウゲンボウで見つかっており、実験感染においては、トラフズク、ヒガシアメリカオオコノハズク、アメリカワシミミズクおよびアメリカフクロウで、記述があります (13)。
 ハヤブサ(あるいは他の猛禽類)におけるヘルペスウイルス感染症は、しばしば“ヘルペスウイルス性封入体病(herpesviral inclusion body disease)”と呼ばれています。現在では、猛禽類でこの疾病を引き起こすヘルペスウイルスは、ハトで見つかる“Columbid herpesvirus-1(CoHV-1)”と同一である事が分かっています。ハト、フクロウ、ハヤブサから分離されたヘルペスウイルスは、事実上、全く同じであるが、他の鳥類のヘルペスウイルスとは異なる事が示されています。CoHV-1 は、フィンチのヘルペスウイルスの DNA シークエンスとほんの53%、ハゲワシ類・コンドル類(vulture)のヘルペスウイルスとインコ・オウム類のヘルペスウイルスとは59%しか一致しませんでした。DNA シークエンシングの結果により、研究者達は、現在のところ、ハトヘルペスウイルス、ハヤブサヘルペスウイルス、フクロウヘルペスと記載されているウイルスは、全て同じウイルスであり、既知の他のヘルペスウイルスとは明らかに区別されると結論付けています(14)。ハトから見つかるヘルペスウイルスは、CoHV-1だけではありませんが、ハヤブサやフクロウから見つかるヘルペスウイルスはCoHV-1に限られているので、猛禽類のヘルペスウイルスの感染はCoHV-1に感染したハトを食べる事によって生じると考えられています(13)。

 ハヤブサ類のヘルペスウイルス感染症は、通常、甚急性であり、(何ら症状を示さずに)速やかに死に至ります。その死亡率は100%です。臨床症状は、もしあったとしても非特異的で、(死亡する前の48~72 時間に)傾眠、脱力、倦怠感、ライムグリーン色をした尿酸、食欲不振が観られます。共通して得られる血液学的な所見は、白血球減少症です。死亡例では、肝臓や脾臓は甚だしく腫大し、肝臓には小さな点状病変が認められます。これらの臓器には、病理組織学的に、Cowdry A型の封入体が見つかります(13,14)。全てのハヤブサ類、あらゆる年齢のハヤブサ類がハヤブサヘルペスウイルスに感受性であり、シロハヤブサとそのハイブリッドは特に感受性が高いと考えられています(3,13,14)。
 フクロウ類のヘルペスウイルス感染症は、ハヤブサ類に比べると症状の進行が遅いと言われており、患者が死亡するまでの期間は、急死する場合もある一方で、長いと4週間程度かかります。その間、患者は元気消失、食欲不振、体重減少を示し続け、口腔内には乾酪性の白色壊死病巣が見つかります。この口腔内の病変はハヤブサ類でも見つかる事がありますが、フクロウ類の方がより一般的に見つかります。この病変は、しばしばトリコモナス症と誤診されている事があります。剖検によって、ヘルペスウイルス性の封入体が肝臓や脾臓に見つかるのはハヤブサ類の場合と同じです(ヘルペスウイルス性封入体病)。このウイルス感染症は全てのフクロウ類にとって危険であるいう訳ではなく、一部のフクロウ類がこのウイルスにより感受性を示す一方で、モリフクロウとメンフクロウはこの病原体に耐性があると言われています。飼育されているフクロウ類がこのウイルスに感染すると死んでしまうのに対して、野生のフクロウ類の中には一見正常なこのウイルスの抗体を保有している個体が見つかるので、潜在的なキャリア鳥や耐過し免疫を獲得する場合がある事が示唆されています。(1,3)。

 2000年頃の文献では、このウイルス感染症は、北米から英国に輸入した猛禽類に見つかる稀な疾病として紹介されており、猛禽から猛禽に感染する可能性についても考慮しなければならない、隔離の対象とするべき伝染病でした(1)。その後の研究の進歩により、現在では、この情報は解釈の仕方が変わっております。
 北米からの報告を調べると、ハヤブサヘルペスウイルス(あるいはフクロウヘルペスウイルス)に感染し死亡したトリ達の種類は豊富であり、これらのウイルスの感染試験によって感染が確認出来たのは、ハヤブサ類やフクロウ類のみならず、クーパーハイタカ、アシボソハイタカ、アレチノスリといった、(一般に感染が認められないと考えられている)北米原産のタカ類の名前すら現れます(15)。一見したところ、北米は強毒なヘルペスウイルスの一大汚染地帯であるかの様な誤解が生じるかもしれませんが、実際にはそうではありません。
 現在では、ハヤブサ類とフクロウ類に大きな被害を発生させる事が懸念されるヘルペスウイルスは、全てハトに由来するCoHV-1と遺伝的に同一なので、その感染はハトの補食や餌として与えられた死体によると考えられています(13,14,15)。この“ハト”とは一般に言うカワラバト(ドバト)の事であり、レース鳩を含みます。
 ハトはこのウイルス(CoHV-1)のレゼルボアです。ハトにとって、CoHV-1というウイルスは恐ろしい伝染病の病原体ではありません。雛鳥の一部では感染によって症状が現れ死亡する事がありますが、成鳥は生涯不顕性のキャリアとなります。ヨーロッパのハトの汚染状況は、おそらく50%以上です(1)。
 野生のカワラバト(ドバト)(野生の)猛禽類に対して行われたヘルペスウイルスの抗体調査の結果によって、CoHV-1に対してハトは強い抵抗力を保有している一方で、猛禽類は一部でヘルペスウイルスに対する抗体を保有している個体が見つかるのみで、ハトの様に強い免疫を保持していない事が分かっております(15)。この事実は、北米とユーラシア大陸の猛禽類では異なる意味を持つ様です。
 本来のCoHV-1というウイルスは、古くからハトの生息するヨーロッパを含めたユーラシア大陸において、ハトの集団内では無害なウイルスとして振る舞い、爆発的な発生というよりはむしろ散発的に、猛禽類の集団に対して致死的な挙動をとる事で、ハトと猛禽類の個体数の調整に一役を担っていたウイルスだったのだろうと考えられます(15)。
 北米には、元々カワラバトが生息していなかったので、CoHV-1というヘルペスウイルスは存在しておりませんでした。土着の猛禽類の多くは、この新参のウイルスにあまり適応出来なかったので、この、本来の宿主とは異なる“異常な”宿主たちには、CoHV-1による被害がよく発生したのだろうと考えられています(15)。
 この考察は、近年行われる様になった遺伝子解析の結果によるものであり、現在のところ最も妥当な考えではないかと思われます。

 本症は、治療の余地の無いまま患者が死亡してしまう事の多い疾病ですが、周辺に居た接触鳥の予防のために使用された抗ヘルペス薬が有効だったという報告があります(13)。チョウゲンボウで試用された弱毒生ワクチンが有効であったという報告がありますが、市販されているワクチンはありません(3)。

アデノウイルス
 アデノウイルス科には5つの属があり、この内の3つが鶏病における“鳥アデノウイルス”です(以前のアビアデノウイルス属のグループ1~3)。猛禽類に感染するアデノウイルスには、現在のところ、この内の2つの属、すなわち、アビアデノウイルス属とシアデノウイルス属に分類されるウイルス種が存在する事が分かっております。

 死亡原因とされてはいるものの、猛禽類のアデノウイルス感染症は、実際よりも少なくしか報告されない疾病であると言われます。患者達は、非特異的なわずかな臨床症状のみ(食欲不振、 脱水、下痢または突然死)を表して死亡するか(16)、なんら前兆となる症状の無いまま急死します(17)。
 現在では、発生の状況や剖検所見から本症が疑われた場合(後述)、遺伝子検査によって(属の分類まで含めた)本症の診断を行う事が出来ますが(16,17)、この検査は最近になって実施可能になった方法なので、以前の報告では、猛禽類で見つかったアデノウイルスは分類までは実施されずに、ただ“アデノウイルス”としか記載されておりません。
 猛禽類のアデノウイルス感染症の診断と分類には、困難が伴います。本来の鶏病におけるアデノウイルスの診断の様に、ウイルスの分離と培養を行おうとすると、猛禽類のアデノウイルスは種特異性により鶏胚初代肝細胞では増殖しないので、例えば発症鳥がハヤブサだった場合、ハヤブサの胚から得た線維芽細胞が必要になります(18)。同様に、電子顕微鏡によってウイルス粒子を検出する為には、サンプル中に 1.0x106/mlのウイルス粒子が存在する必要があるので、(培養サンプルではない組織サンプルの場合)容易に偽陰性となってしまいます(17)。
 分類が行われなかった過去の“アデノウイルス”の報告により、オオタカ、アメリカチョウゲンボウ、コチョウゲンボウ、モーリシャスチョウゲンボウが、アデノウイルスに感染する事がある事が分かっております。中でもモーリシャスチョウゲンボウは、アデノウイルスに対して強い感受性を示し、この感染は家禽に由来する食餌であったと述べられています(17)。今後、研究の進展によって、こうした過去の報告についても詳しい情報が整理される日が来るかもしれません。

 ハヤブサ類で見つかったアビアデノウイルス属のウイルスは、“Falcon adenovirus”と命名されています。このウイルスは、1996年に北米の施設でオナガハヤブサ(アプロマドファルコン)の巣内雛を大量死させました。この時の感染は、仮親として用いられた北米産のハヤブサ(亜種アメリカハヤブサ)が感染源であった事が分かっており、その後の研究により、本種は自然界におけるこのウイルスの自然宿主である事が(無症状で共生状態にある事が)判明しました(16,18)。
 このウイルスは、糞便-経口経由で水平伝播し、ハヤブサ以外のハヤブサ類にとって大きな脅威となる事や、異種間の抱卵に関連して相対的リスクが増大する事が分かっています。オナガハヤブサの巣内雛の感染例では、72/110 羽に異常が見つかり62羽が死亡しました(死亡率86.1%)。この時の報告では、ハヤブサの巣内雛にも異常が見つかっておりますが、その罹患率は6/102羽であり、死亡したのは2羽のみでした(死亡率33%)。さらに、異常の見つかったオナガハヤブサの内、ハヤブサに抱卵させていた場合のオナガハヤブサの雛達の発病率は 85.7%であり、オナガハヤブサに抱卵させていたオナガハヤブサの雛達の発病率は 59.3%だったので(相対危険度は1.5)、ハヤブサに抱卵させた場合、オナガハヤブサに抱卵させた場合の1.5倍Falcon adenovirusに感染しやすいという事が分かっております(16)。
 北米に生息するハヤブサは、Falcon adenovirusの主要なレゼルボア(感染源)であり、その抗体陽性率は80-100%にもなります(18)。1996年の発生以降、このウイルスは北米の各地で見つかる様になり、北米の様々なハヤブサ類の重要な病原体であると認識される様になりました(16)。感染後死亡した猛禽類には、タイタハヤブサ幼鳥、ジアxペレ幼鳥、コチョウゲンボウ幼鳥、バヌアツハヤブサ、アカハラハヤブサの報告があります(16)。オナガハヤブサを含む北米に生息する他のハヤブサ類では、アデノウイルスの抗体陽性率は低く43-57%です。さらに、熱帯のハヤブサ類や離島に生息するハヤブサ類では、一様に抗体陰性であり、こうした種では成鳥の間でも死亡例が報告されています。すなわち、こうした種は高い感受性をしていると言えます。
 Falcon adenovirusに感染したトリ達は、食欲不振、脱水、下痢または突然死を示します。この疾病の発生には、“死亡の集積性(短期間に死亡が集中すること)が認められます。剖検によって見つかる主要な病変は、封入体肝炎、脾腫、腸炎です。このウイルスの感染は、in situ ハイブリダイゼーションや他のPCRによって証明する事が出来ます(16)。
 飼料として与えられる家禽(ニワトリ、ウズラ)からは、このウイルスは見つかっておらず、感受性も認められないので、食餌は感染源ではありません。ハヤブサアデノウイルス感染症の管理法として第一に推奨されるのは、感受性があると考えられるハヤブサの仲間達とウイルスキャリアー(アメリカハヤブサ)を隔離する事であると言えます。

 もう一つのアデノウイルスの報告は、2006年に英国で行われました。この新種のシアデノウイルス属のウイルスは、“raptor adenovirus”と呼ばれています(17)。
 ハヤブサで見つかったアデノウイルスFalcon adenovirusと異なり、このウイルスは目(もく)の異なる数種の猛禽類(ハリスホーク、ベンガルワシミミズク、クロワシミミズク)から見つかっており、患者達の年齢も比較的高齢です(20週齢~3歳齢)。同時期に死亡のあったアカトビ(1歳齢)についても、これらの感受性鳥に加える事が出来るかもしれません。このウイルスの感染源は、以前にあったモーリシャスチョウゲンボウの症例と同様に、飼料として与えられた家禽(ひよこやウズラ)であると考えられておりますが、詳しくは調べられていません。しかし、病気の発生があった2つの繁殖施設からは、一時的に家禽の給餌を中止し、哺乳類に由来する飼料に切り換えたところ、この疾病の発生は止まりました。
 患者達は、なんら前兆となる症状の無いまま急死しました。剖検により、これらのトリ達には、肝壊死、肝炎、脾臓の壊死、膵炎、前胃および筋胃の潰瘍形成と壊死が見つかり、病理組織検査により、肝臓、脾臓、筋胃、膵臓、小腸、腎臓の細胞からは好塩基性の核内封入体が見つかっております。この報告でも、トリ達の死亡には集積性が認められました。
 アデノウイルスの感染は、内臓の出血および炎症など、初期には非特異的剖検所見が得られ、核内封入体の発見が、(集団内での)臨床経過が進むにつれて次第に明らかになっていくのですが、しばしば疾病の後期になってからしか診断出来ないので、たとえ病理検査を行われていたとしても容易に見逃してしまうかもしれません。迅速な本症の診断のために、PCR検査が推奨されます(本邦には商業ベースの検査所がない)
 本症の予防の為に、汚染飼料の検出と廃棄、鶏病用のワクチン(本邦未発売)の使用が検討されておりますが、これらはまだ研究の途上にあります。

<2017年追記>
 上記のアデノウイルス以外にも、2017年になって、本邦で飼育されていたフクロウ幼雛から、新たなアビアデノウイルス属のアデノウイルスが見つかった事が報告されました(22)。このウイルスには、過去の経緯から、つまり、検査に関わる技術水準の問題から、当時分類や同定を行う事が出来なかった、まだまだ報告されてない種があるのかもしれません。
 アデノウイルス感染症の生前診断は事実上不可能なです。おそらく、それと分かる症状が現れた頃には患者が死亡してしまうか、いつの間にか死亡していたという顛末になってしまう事が、ほとんどであると考えられます。ただし、集団で発生があった場合、抽出した死亡個体の死後剖検の結果から本症を疑い、暫定的な仮診断により治療を開始するという事は出来るかもしれません。

封入体肝炎
(図1.死亡した種不明のフクロウ類の雛に見つかった封入体肝炎。好酸性~好塩基性の核内封入体に注目。HE染色)


猛禽痘
 鳥ポックス(鳥痘)は、猛禽類ではフクロウ類以外の全ての鳥種で見つかります。このウイルスは種特異性が強いので、獲物からは感染せずに、猛禽から猛禽へ、直接あるいは吸血昆虫を介して感染します。ヨーロッパにおける本症の発生は、中東から輸入した猛禽類によると考えられています(3)。本邦でも、野生のオジロワシでこの疾病が確認された事があります(19)。
 このウイルス感染症の、病型、診断、治療、予防については、既に他の鳥種で述べられている内容(鶏痘、雀痘など)と大きく変わるところがないので、省略します。

ウエストナイルウイルス
 ウエストナイル熱・脳炎は、動物由来感染症です。この疾病は、1999年-2002年にかけて、北米でヒトへの感染が見つかっています。日本における国内感染の報告はありません(20)。
 このウイルスは、蚊やシラミバエなどの吸血昆虫によって媒介されます。感染鳥のウイルス排泄は種によって異なり、カラスやスズメ目のトリ達が最も高濃度のウイルスを長期間排出します。猛禽類は、(蚊による媒介だけでなく)獲物としてこれらの鳥類を捕獲して食べたり、死体を見つけて食べている鳥種になるので、よく問題視される事があります。上述の北米での発生では、特にクーパーハイタカとアカオノスリ(21)、北方系のフクロウ類(シロフクロウ、カラフトフクロウ、オナガフクロウ、キンメフクロウ、アメリカキンメフクロウ。これらは“northern owl”と呼ばれる(22)に、ウエストナイルウイルスに感染した病鳥や死亡例が見つかっています。このウイルス感染症では、高病原性鳥インフルエンザやパラミクソウイルス1型感染症(ニューカッスル病)とよく似た神経症状が見られるので、これらの疾患と類症鑑別されなければなりません(3)。

狂犬病
 海外では、本邦とは違い狂犬病の発生のある国の方が普通なので、野生の猛禽類も狂犬病の媒介の一つとして取り扱われる事があります。猛禽類が狂犬病の症状を示すという事は無いのですが、他の動物に対するレゼルボア(感染源)である可能性について考慮し、慎重に取り扱うべきであると言われています(3)。

特記事項
これらのウイルスの中には、家畜伝染病予防法に記載のある法定伝染病や届出伝染病と同じウイルスが含まれています。
猛禽類は法律上の家きんではないので、この様な法律の適用される鳥種ではありません。
(法律は)細かなルールの変更がいつの間にか起きている事があるので、最寄りの家畜保健衛生所へ確認の問い合わせをした方が無難だと思います。

参考文献
1) 猛禽類,ハト,水鳥マニュアル, 学窓社, 2003
2) エイビアン・メディスン, インターズー, 2003
3) Raptors, Pigeons and Passerine Birds, p212-p222, BSAVA, 2008
4) 鳥インフルエンザ, 国立感染症研究所 感染症情報センター,
http://idsc.nih.go.jp/disease/avian_influenza/index.html
5) 家畜の監視伝染病 低病原性鳥インフルエンザ, 動物衛生研究所,
http://www.naro.affrc.go.jp/org/niah/disease_fact/k25.html
6) 高病原性鳥インフルエンザに関する情報, 環境省,
https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/bird_flu/
7) 鳥インフルエンザに関する情報, 農林水産省,
http://www.maff.go.jp/j/syouan/douei/tori/
8) 伊藤壽啓, 高病原性鳥インフルエンザと野鳥の関わり, ウイルス 第59巻 第1号p53-p58, 2009
9) Jeffrey S. Hall et.al., Experimental Infection of a North American Raptor, American Kestrel (Falco sparverius), with Highly Pathogenic Avian Influenza Virus (H5N1), PLoS ONE , www.plosone.org, October 2009, Volume 4, Issue 10, e7555
10) Avian Influenza, The Raptor Center,
https://www.raptor.umn.edu/our-research/avian-influenza
11) Other Avian Paramyxovirus Infections, The Merck Veterinary Manual,
http://www.merckvetmanual.com/mvm/poultry/newcastle_disease_and_other_paramyxovirus_infections/other_avian_paramyxovirus_infections.html
12) 鳥類の内科学と外科学, NEW LLL PUBLISHER, 2008
13) N A Forbes et.al., Falcon herpesvirus in the UK, The Veterinary Record 21:492, 2000
14) Pigeon, Falcon and Owl Herpesvirus, Animal Genetics UK ,
http://www.animalgenetics.eu/Avian/avian-disease-testing/pigeon-herpes.html
15) Marie E. Pinkerton et.al., Columbid herpesvirus-1 in two Cooper's hawks (Accipiter cooperii) with fatal inclusion body disease, J Wildl Dis., 44(3):622-8., Jul 2008
16) Mark Schrenzel et.al., Characterization of a New Species of Adenovirus in Falcons, J Clin Microbiol., 43(7): 3402–3413., Jul 2005
17) Petra Zsivanovits et.al., Presumptive Identification of a Novel Adenovirus in a Harris Hawk (Parabuteo unicinctus), a Bengal Eagle Owl (Bubo bengalensis), and a Verreaux's Eagle Owl (Bubo lacteus), Journal of Avian Medicine and Surgery 20(2):105-112. 2006
18) J. Lindsay Oaks et.al., Isolation and Epidemiology of Falcon Adenovirus, J Clin Microbiol., 43(7): 3414–3420., Jul 2005
19) 渡辺有希子ら, オジロワシ留鳥個体で確認されたポックスウイルス感染症について, 北獣会誌 50, 2010
20) ウエストナイル熱について, 厚生労働省,
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou08/
21) Ady Y. Gancz et.al., Detecting West Nile Virus in Owls and Raptors by an Antigen-capture Assay, Emerg Infect Dis.,Vol. 10, No. 12, December 2004
22) Ady Y. Gancz et.al., West Nile Virus Outbreak in North American Owls, Ontario, 2002, Emerg Infect Dis., Vol. 10, No. 12, December 2004
22)内田 悠ら, フクロウ幼雛におけるアデノウイルス感染症の流行, 第160回日本獣医学会学術集会病理学分科会,2017
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