マクロラブダス症

 マクロラブダス症は、以前の名称をメガバクテリア症、あるいはAGY症(avian gastric yeast)と言いましたが、現在では細菌性疾患ではなく、酵母のMacrorhabdus ornithogaster(以下マクロラブダス)による前胃ないし筋胃の疾患(proventricular disease;PVD)である事が分かっています。
 
 マクロラブダス症のトリ達は、PVDによる胃炎や胃のpHの異常によって起きる消化不良が原因となって、吐出食欲不振未消化の種子の排泄が観察され、次第に痩せていきます。この病気は、体重減少のみしか異常が見つからない事があるので、英語圏の国では“going light(軽くなる)”と呼ばれる疾病の一つとして紹介されている事があります。

 マクロラブダスによると考えられる PVD は様々な種で報告されており、その中には、セキセイインコ、オカメインコ、ラブバード、カナリア、コキンチョウ、キンカチョウが含まれています。
 マクロラブダスは、非常に広範囲な鳥種で見つかる酵母です。ただし、この酵母がPVDを起こす事が分かっている飼い鳥は、ごく少ない鳥種に限られます。

 PVDマクロラブダスの正確な関係は、十分には分かっていません。この微生物は大勢の無症状の野鳥に存在するので、消化管内に生息する正常な常在菌なのかもしれないと言われています(オーストラリアで捕獲した野生のコキンチョウの研究では、60%が陽性であったと報告されています)(Herck ら,1984;Pennycott ら, 1998)。一方で、マクロラブダス陽性鳥と同種の陰性鳥を長期間同居させたとしても、陰性鳥は陰性のままであったという報告があるので(Filippich, 1992)、この酵母には、単純に既に前胃に感染していた日和見的な侵入者であるという可能性も支持されています(トリとトリの間を伝播されない、感染しない病原体ならぬ侵入者)。しかしながら、PVD鳥の大半が多数のマクロラブダスに感染しており、アンホテリシンBで治療後臨床症状が改善する患者が現れるので、この微生物は、実際に病的な役割を担っていると言われる様に成りました(1)。

 マクロラブダス症のトリでは、しばしば前胃の pH が上昇します(pH7.0~7.3)。このpHの上昇は、筋胃の koilin 層を軟化させ、筋胃の粘膜のびらんや潰瘍の原因となります。マクロラブダスは、よくこの様な症例の前胃の腺から見つかっています。ただし、この微生物がどの様にpH を変化させているのか、その高いpH を何に利用しているのかなどについては、十分には解明されておりません。

特記事項
マクロラブダスは、42℃、至適pH3~4で、グルコースやショ糖を利用して増殖する酵母です。この培養条件は、トリの胃内で、砂糖をよく摂っているトリ達にマクロラブダスがよく見つかるという事を意味します(2)。ペットのトリ達に、ヒトの食べているお菓子を与えてはいけません
マクロラブダスは、感染鳥の30%程度にしか糞便中に排菌が起きないので、糞便検査では完全な診断を行う事が出来ません。一番正確なのは、死後の剖検時に前胃の粘膜(腺組織)を掻爬し顕微鏡で検査する方法ですが、生きたトリ達では実行出来ない検査です(2)。糞便検査を相当数繰り返したとしても、その結果は偽陰性の事があります
マクロラブダスは、いくつかの細菌とよく似ているので(Clostridium perfringens(ウェルシュ菌)、乳酸菌など)、誤診されている事がよくあります(2)。

20160530.jpg
(図1.糞便サンプルの直接鏡顕像より、Macrorhabdus ornithogaster。この酵母は、周辺にある細菌よりも遥かに大きな細菌の様に見えるので、以前はメガバクテリアと呼ばれていた)


Clostridium perfringens
(図2.Wikipediaより、Clostridium perfringens(ウェルシュ菌)。グラム染色)

参考文献
1) Raptors, Pigeons and Passerine Birds, p366, BSAVA, 2008
2) 花房泰子, 微生物と上手に付き合っていくために-カビがいない世界はない-, 平成22年度 愛知県獣医師会 野生動物対策検討委員会主催セミナー要旨, 2011
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ま、いいじゃないか(^^;

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