毛引き症

 毛引き症には、トリ達が自ら羽毛を引き抜こうとする行為だけではなく、羽毛や皮膚の異常を気にして(羽毛や自身の体を)かじろうとしたり自傷行為に及ぶ場合が含まれます。
 猛禽類の毛引き症は主としてハリスホークに認められ、ある報告では全体の患者の81%がこの鳥種によって占められていました(1)。

 (猛禽類の)毛引き症には、知能の高いトリ達に見られる行動上の問題(“退屈による問題行動”)である場合と、他の疾病や外傷等の異常によって発生している“症状”である場合があります。

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(図1.毛引き症のハリスホーク。左;両親と兄弟から離され、訓練の為に繋留される様になった頃から毛引き症が始まった。両腿には羽毛が無い。右;半年後、実猟を経験し、“ひとりで”遊ぶ事を覚えた頃から、羽毛が戻る様に成った)
 ハリスホークは、もっとも毛引き症の症例数が多いだけではなく、猛禽類の中でも高い知能を有すると考えられている種です。類似した行動はインコ・オウム類やイヌでも見つかるので(分離不安症)、その行動の原因は“退屈”にあるのだろうと言われます。

 野生のハリスホークは集団で生活して狩りを行うトリ達なので、彼らは、多くのインコ・オウム類のトリ達がそうしている様に、互いを刺激し合ったり、生活活動を営む為に他者を頼るという事をしています。
 ハリスホーク毛引き症は、飛翔を行わない時期に、トリが1羽だけで鳥舎に居たり、1羽で繋がれている時に発生し易いとされています。この様なトリ達は、(例えばおもちゃなどにより)精神的な充足が得られておらず、精力的な活動に満ちていると呼べる様な刺激を(外部から)得ていないので、“退屈”して毛引きを行うというのが、その説明です(1)。

 問題行動へのアプローチは多面的であっても構わないので、同じ行動を異なる理由を用いて説明する事も可能です。すなわち、特に若い個体では、鳥と人とのアタッチメント(愛着)の強さが原因で、精神的に未熟なトリ達が毛引き症を始めるという考え方です。

 そのトリがヒトに対して餌をねだる行動が強く現れる場合(“screamer”)、そのトリはヒトを親鳥の様に認識しており強い絆が存在しているという解釈が為されます。もしも、その鳥種がハリスホークであるならば、関係を築いているヒトがトリの視界から消えてしまうと、そのトリが毛引きを始める事があります。
 この行動の解消には、時間をかけて破壊しなければならない食餌を与え(例、カラスの頭部など)、トリが一人で過ごしている時間に耐えられる様に仕向けていくという訓練が実施されます。成功すれば、そのトリ達は“ひとり立ち”を果たし、たとえ1羽だけであっても“ひとり遊び”をしながら“留守番”が出来る様に成ります。

 これらは、どちらも分離不安症という問題行動(毛引き症)にアプローチする時の考え方であり、トリ達を“退屈”させない様に“不満”を満たしていこうとする考えも、トリ達の精神の成長と自立を促し、正常な行動を発達させながら、問題行動を解消して行こうという考えも、実際には、(専門知識など無くても)大勢の猛禽類の飼育者達によって、いつの間にか両方とも実践されています

 すなわち、ハリスホークに与えるべき“おもちゃ”や“刺激”とは、実猟やその為の調教の事であり、見知らぬ場所へ連れて行き、飛ばし、獲物を探させ、これを捕らえさせ、食べさせるという行為の全てを指しています。これらの行為を繰り返し体験したトリ達は、充足し、ヒト以外の周囲の刺激にも反応して獲物や遊ぶモノを探す様に成り、問題行動(毛引き症)は少しずつ改善していきます。
 おそらく、1年目の猟期を順調に終えたトリ達は、“いつの間にか”、“ひとり遊び”が上手に出来る様に成っているはずです

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(図2.“ひとり遊び”。時間を上手につぶせる様に成ったハリスホークには、毛引き症の徴候は認められない。大緒で遊ぶトリ、小石を集めてくるトリなどが居る。遊び方は様々である)

 毛引き症には、局在する外傷外部寄生虫などの感染に続発して発生する事例が存在します。
 こちらのケースでは、ハリスホーク以外の猛禽類(CB鳥)でも報告があり、その鳥種とは、クロコンドル、ハヤブサ、ハイタカ、タテジマフクロウ、ジアxマーリーン(ハイブリッドファルコン)でした(1)。当院症例では、この様なトラブルはハンドレアードのフクロウ類(アフリカオオコノハズク、メンフクロウなど)で遭遇しております。

 こうしたトリ達は、外傷などによって発生する毛引き症や自傷行為だけでなく、骨折の手術などの後に行う包帯処置などにも、非常に激しい反応を示す可能性のあるトリ達になるので注意しなければなりません。
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(図3.アフリカオオコノハズクの自咬症。退院させ、自宅に戻る度にこの行動は“再発”した)

 この様なタイプの毛引き症は、翼ならば翼端に見つかり易く、折れて無くなってしまった羽毛のあった羽包(羽嚢)領域の細菌感染などが引き金になる事があるので、もしも、その様な羽毛を見つけた場合は、予防的に投薬を行っておくのが無難な選択になります。

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(図4.正常に脱落した羽毛(左)と羽軸の破断によって“折れた”羽毛(右)。この様な異常な羽毛が見つかる場合、毛穴に相当する羽包(羽嚢)が細菌によって汚染を受けている事がある)

特記事項
猛禽類の毛引き症は、極端にハリスホークに偏った問題です。
“ハリスホークの毛引き症”は、大勢の猛禽類の飼育者が実力で治す事が出来る問題行動です
毛引き症の大半は行動上の問題ですが、一部で、特にハリスホーク以外のトリ達で見つかった毛引き症は、何らかの異常の徴候である可能性が高いので、必要な検査を行うべきです

参考文献
1) Smith SP, Forbes NA, A novel technique for prevention of self-mutilation in three Harris' Hawks (Parabuteo unicinctus), J Avian Med Surg. 23(1):49-52., Mar, 2009
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ま、いいじゃないか(^^;

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