嘴の損傷

 嘴は、一個のカルシウムのカタマリなどではなく、血の通った構造をしています。嘴の表面を構成している角質層(ケラチン)は、骨との間にある真皮から成長したシート状の構造物です(1)。真皮には血管も神経も存在するので、嘴を負傷したトリ達の中には出血が認められる事があり(図1)、痛みや細菌の汚染に悩むトリ達が現れます(図2)。

ミンク咬傷
(図1.ミンクの咬傷により上嘴から出血しているハリスホーク。細菌による汚染を防ぐ為に、抗生物質による治療が必要である)




カラス
(図2.“かじり甲斐のある”食餌を与えられていたトリ達の中には、嘴の一部に損傷や細菌感染の証拠が見つかる事がある)

 嘴の一部に生じた亀裂やひびの修復は、簡単です。それ以上亀裂が広がらない様にヤスリで形を整えるか、それ以上の損傷の場合は歯科用レジンやワイヤーなどにより嘴を合わせます(図3)(2)。この様な嘴は、時間の経過と共に、正常な形を取り戻すのが普通です。

アメリカチョウゲンボウ
(図3.アメリカチョウゲンボウの嘴に見つかった亀裂。ヤスリで整形し、亀裂が進行しない様に処置した)

 上嘴の2/3異常が失われている場合、本来ならば空気に触れない真皮や骨が障害を受けて壊死してしまうので、正常な嘴の再生が妨げられてしまう場合があります(図4)。この様な症例では、乾燥を防ぐ為のプロテーゼ(歯科用レジンなどで作製した嘴)を装着し嘴の再生を待つか、このまま飼い続ける(いずれは安楽死する)かします。時折、嘴が再生する事があります(1,2)。

ノスリノスリノスリ
(図4.強風により、路面に叩き付けられたと考えられるノスリ。剥き出しになった骨組織の表面が、既に乾燥により壊死してしまっている。下嘴の場合と違い、上嘴の欠損症例では、刻んだ肉片を食べる事が可能である)

 別々の構造である様に扱われる事も多いですが、英語の嘴(Beak)の解説には蝋膜(Cere)が含まれるので、蝋膜の損傷についても述べます。
 打撲や他の猛禽類の攻撃によって生じたこの部位の損傷は、感染を防ぎ血行を保つ事で、多くは治癒します。この傷害は、特に冬季の乾燥によって壊死部分が広がって行く事があります。

蝋膜損傷
(図5.蝋膜の損傷。放飼されていた禽舎内でナニカに激突したと考えられる)

特記事項
軽度の嘴の亀裂は、飼育者自身によって処置していただいて構いません。
出血があり、乾燥によって組織が障害を受ける可能性がある嘴のトラブルは、可及的速やかに動物病院を受診するべきです。
適切な薬の処方を受ける必要があります。例えば、図2や図5の症例ならば、1~2週で治癒するはずです。

参考文献
1) 鳥類の内科学と外科学, p787-p799, NEW LLL PUBLISHER, 2008
2) 猛禽類,ハト,水鳥マニュアル, p143, 学窓社, 2003
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ま、いいじゃないか(^^;

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