翼の骨折

 “翼の骨折”とは、翼を構成する主要な骨である上腕骨と、橈骨ならびに尺骨の骨折をいいます。
 飼育されている猛禽類ではこれらの部位の骨折に遭遇する事は稀なので、ここで紹介する症例は全て野生の猛禽類になります。

チュウヒ
(図1.畑の中で見つかったチュウヒ。強い風の吹いた日の翌朝には、野生の猛禽類が“落ちて”いる事がある)

 
 翼の骨折の整復には数多くの方法が紹介されておりますが(1,2)、おそらく本邦で最も多く使用されており治療(治癒)の実績があるのは、ESFピンと IMピンを用いたtie-in 法による複合型固定です。

ノスリノスリ
(図2.ノスリに用いたtie-in 法。抜ピン前に、確認の為に撮影した時のレントゲン像である。尺骨には仮骨が形成され、骨折の治癒が認められる)

 鳥類の骨折における特殊事情に、橈骨ならびに尺骨骨折の取り扱いがあります。
 イヌやネコの同一部位の骨折では、橈骨あるいは尺骨のどちらかのみに骨折が存在する場合、反対側の骨が強力な支持組織として機能するので、一切の固定の為の処置を行わずともその骨折は治癒します。
 鳥類で、特に野鳥にこの方法を選択しようとするのは、合理的ではありません。鳥類の前腕部には、軟部組織の支持が少ないので、癒合不全や癒合遅延が生じやすく、榛骨と尺骨が骨癒合してしまうなどの好ましくない有害事象が発生します。特に橈骨骨折の場合、この骨はよく動くので、その傾向が強いと考えられています(1)。

ノスリ
(図3.尺骨骨折。細い方が橈骨で太い方が尺骨である)

 翼の骨折の治療を受けたトリ達は、抜ピンの直後は軟部組織が柔軟性を失って飛べなくなっている事が多いので、機能回復の為のリハビリテーションが必要です。

ハイタカノスリコミミズク
(図4.リハビリテーション中の野鳥たち。左;ハイタカ。中央;ノスリ。右;コミミズク)

特記事項
翼に骨折が存在する可能性のあるトリ達は、可能な限り羽ばたかせてはいけません。訓練されている猛禽類では、輸送箱にトリ達を入れて連れて来るだけで、この目的は十分に果たせます。訓練されていないトリ達を連れて来ようとする場合、トリ達は最低でも周囲が見えないダンボール箱に入れて連れて来られるべきであり、可能であれば、キャスティングジャケットや、靴下、長袖の袖、ストッキングなどで翼を動かさない様に拘束されて連れて来られるべきです。
断翼処置が必要なトリ達は、その後の生活の質に著しい瑕疵が生じるので、安楽死が推奨されます。

参考文献
1) エイビアン・メディスン, p133-p149, インターズー, 2003
2) Raptors, Pigeons and Passerine Birds, p167-p169, BSAVA, 2008
プロフィール

わたらい先生

Author:わたらい先生
ま、いいじゃないか(^^;

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