中毒(農薬等)

 農薬とは、枯れ葉剤や害虫や野鼠などを駆除する為の薬品類の事です。
 テキストの時代を遡ればさかのぼるほど、この問題は大きな脅威として取り扱われる傾向があったのですが、現在の我が国では、ポジティブリスト制度(*)の導入以降、農薬による被害は年々小さなモノとなっております。
(*;食品衛生法により、農薬などが基準値を超えて残留する食品の販売、輸入などを禁止している制度。従来のネガティブリストに比べて、より広範囲の農薬等が規制の対象となった。全体に、農薬等の使いすぎや残留を抑止する効果があったと言われている)

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(図1。写真はカワウ。同じ時期に野外で、“動かないトリ”が何羽か、あちこちで保護される事がある)

 
 鳥類は、哺乳類に比べると、農薬等に強い感受性を示します。猛禽類であるチョウゲンボウの数値が示されているので例示いたしますと、有機リン剤の一種であるフェンチオンという化合物の急性毒性LD50(半数致死量)は、チョウゲンボウが1.4mg/kgであるのに対し(1)、ラットでは405 mg/kg (雄)、566 mg/kg(雌)という数値が示されています(2)。この数値は、他の鳥種であるマガモの5.9 mg/kg、コリンウズラの4.6 mg/kgよりも更に低値であり、鳥種間でも同じ薬剤に対して異なる感受性が示される事を示唆しています。一概に言える事ではないのですが、過去に当院で行った猛禽類への有機リン剤の感受性試験では、ハイタカハリスホークトビの順に、摂取量と症状の出現に差が認められました。最も感受性が高かったのはハイタカで、有機リン剤に汚染された飼料(当時、食肉店で販売されていた焼き鳥用のスズメ)をひとかじりした姿勢のまま倒れ、けいれん発作を起こしました。ハリスホークは、スズメを1羽摂取していましたが一過性に脚力の低下が表れたのみであり、止まり木に止まっている事が出来ました。トビについては残された飼料の全てを数日に渡って消費させましたが、その間、一切の症状が現れませんでした。この汚染飼料は現在では流通していないはずですが、同種の事故は、コチョウゲンボウオオタカでも観察され、このトリ達は死亡した事になっています(わたらい私信)
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(図2.このオオタカは、飛翔訓練中に地面に下り、突然無気力状態に陥った。一晩経った後も元気は回復せず、嗉嚢(そのう)内にうっ滞した食餌が水入れの中に吐出された。患者は酸敗嗉嚢(そのう)等の支持療法を受けた後、食欲と元気を回復した。トリを飛翔させていた場所には水田や町の名木があり、管理の為に何らかの農薬が使われていた可能性がある)

 ほとんどの場合、因果関係が不明のまま暫定的に診断を下して治療を行うのが、農薬が原因と考えられる中毒です。全体に、現在使用されている枯れ葉剤は昔の製品に比べれば有害事象は無いはずですが、それでも中毒の記述が書物の中に登場します(3)。昔から、症状が明らかで診断しやすいのは、有機リン中毒です。殺鼠剤などに用いられる抗凝固剤による中毒は、鳥類では見かけません。
 有機リン剤によると考える中毒では、飛翔を行っていたトリが突然地面に下りた後ぐったりする。痙攣を起こす。嗉嚢(そのう)内の食物を吐き出す。死亡するといったイベントが発生します。水浴びを始めた途端、急速に活力を失ったというケースや、地面に落とした飼料を与えた結果、トリ達に異常が出たというケースもあります。有機リン剤は、経口、経皮、吸入のいずれのルートからも吸収されるので、飛翔中でも、その場所に止まっていただけでも、汚染を受けた飼料を食べても、如何なる方法でも中毒が起きる可能性があります。診断には、コリンエステラーゼの血中濃度の計測が役に立つ事ありますが、鳥類の正常値は明らかにされておりません(4)。
 有機リン剤は、散布直後ではなく分解の途上にある成分を摂取した場合、症状が分かり難くなるので、散布後時間が経過してから発生した中毒の場合、非典型的な症状を前にして診断に苦慮する傾向があります。また、一部の有機リン剤中毒の症状として、遅発性の末梢神経障害が発生する事があり、やはり、この症状も分かり難いので、診断が遅れる原因になる事があります。

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(図3.このハリスホークは、中毒物質への暴露後、遅延性に発生した神経障害により、摂食嚥下障害と吐出や嘔吐を呈する様に成った。症状は約3週間後から改善され、食餌の嚥下が可能になった後も3ヵ月程度持続した。https://youtu.be/5V_L1a97T4Qにある採食時の動画も参照のこと)

 農薬等によると考えられる中毒は、近隣の農地で使用されたそれと分かる製品による発生が確認される事は珍しく、気象条件による遠方からの飛散や、その地域一帯に汚染があると考えた方が妥当な、成分も定かでない物質による発生である事が普通です。

特記事項
それほど高頻度に遭遇する問題ではありません。
ほとんどの場合、“原因不明の中毒”です。農薬が犯人とは限りません。
地面に落ちた餌よりも、餌入れから出した餌の方が安全です。
フリーフライトの際、不用意に周辺で水浴びなどをさせるべきではありません。
自宅の庭であったとしても、飛散等によって汚染を受けている事があります。

参考文献
1) 田原るり子ら, タンチョウへい死個体中の有機リン系農薬の分析, 全国環境研会誌Vol. 35 No. 2, 2010
2) 食品安全委員会, 農薬評価書 フェンチオン(第2版), 2013
http://www.maff.go.jp/
3) 農林水産省 消費・安全局 農産安全管理課 監修, 農薬中毒の症状と治療法 第15版, 2014
4) 鳥類の内科学と外科学, p610-p611, NEW LLL PUBLISHER, 2008
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ま、いいじゃないか(^^;

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