消化管の閉塞

 鳥類で消化管の閉塞性疾患があるとしたら、その閉塞部位には、嗉嚢(そのう)、前胃、筋胃、腸(小腸)が候補に挙がります。実際に遭遇するのは、上部消化管(前胃と筋胃を含めた、胃より上方の消化管)が圧倒的であり、それより下方の閉塞は稀です。

嗉嚢部の陥凹
(図1.胃内容を努力して吐き出そうとする時、猛禽類の鎖骨周辺は大きく凹む。慢性的に吐き出せない異物が胃内に存在する時や、胃部に不快感が継続している時に、この症状は継続する。この凹みは、痩せている若い雌のトリ達では日常的によく見かける事がある。こうしたトリ達では“声が変わる”事があるが、それは呼吸器疾患による症状ではない。容積を増した嗉嚢(そのう)や前胃、胃の下垂に伴う食道との接触によって生じている症状である)

 
 閉塞のパターンは、おおよそ4つに分けられます(1)。

1. 過大な食餌の摂取による閉塞
 体格に対して過大な食餌は、閉塞の原因となる場合があります。猛禽類は、必ずしも、自身に適正なサイズの飼料を選んで採食するという事をしていません。特に若い個体ほど、(ⅰ)食餌の前で落ち付いた挙動を行い、(ⅱ)羽毛を丁寧に引き抜いて処理し、(ⅲ)その後小さく分解した肉片や骨片を少しずつ食べるという、“テーブルマナー”が未熟です。
 この傾向は、近隣に同種のトリないし(インプリント鳥の場合特に)ヒトが居る時に顕著に現れます。トリ達は、眼前の肉塊を、羽毛が付いていようが、巨大な骨片が付いたままになっていたとしても、急いで体内に“隠して”しまいます。

ペリットの排出(カラスの足)きれいに食べた
(図1.左;雌のハリスホークにより、摂取2日後に吐き出されたペリット。その構成成分は、カラスの片足丸ごと1本分である。右;同じ個体が、ヒトの見ていない場所では丁寧に羽毛の付いた食餌を処理して、“美しく”食べ終わる事が出来る)

 結論を先に述べてしまえば、どの様な飼料を与えていたとしても“丸飲み”さえされてしまえば、確率的に閉塞は発生します。ありふれたウズラやヒヨコを丸ごと与えた場合であっても、“頑丈な”肉の付いたウサギの骨を与えたとしても、問題が起きない時もあれば、致命的な経過になる時もあります。

インプリント鳥(羽襖と餌鳴き)吐き出されたウズラ
(図2.興奮性の激しい雌のオオタカは、与えられたウズラをろくな解体を行わないまま丸ごと飲み込んだ。翌日になって、このトリは骨の付いたままの肉片を多数吐出した)

 骨は先端が鋭性に割れやすいので、嗉嚢(そのう)内や前胃で横位に回転すると、嗉嚢(そのう)内で閉塞を形成するか、消化管を穿孔させて末期の腹膜炎を発生させるので、事故を予防するために、これらの食餌には与える前にハサミなどで骨に切れ込みを入れるか、ハンマーで砕くという事が行われます。鋭利端が無い方が望ましく、胃を通過した後に腸で詰まる事のないサイズまで細かくしておく必要があるので、特にウサギ以上の体格のある動物の骨を与える時には、注意が必要です(ウサギくらいの骨になると、骨の強度が胃酸で劣化しないので、胃を通過した後に腸でも閉塞する(2))

吐けない11日目ペリットの排出
(図3.この雌のハリスホークは、突然ペリットの排出が停止した後、鎖骨周囲の凹みが明らかになった。この異常は、11日後にペリットが排出されるまで続いた)


2. 不消化物の誤飲による閉塞
 このパターンは、食物以外の摂取による閉塞です。
 日常的によくあるのは、猛禽類が餌と一緒に床材(木くずや新聞紙、砂や玉砂利など)を摂取している場合です。こうしたケースでは、いつの間にか胃や腸内に膨満や閉塞が発生している事が、単純なレントゲン撮影か造影検査によって診断されます(3)。
 トリによって、異物が故意に食べられてしまう場合もあります。こういう事故は、明らかに鳥種によるのですが、ハリスホークフクロウ類で見つかるトラブルです(1)。参考文献では、大緒で遊んでいたハリスホークがソレを飲み込んでしまったという事例が紹介されておりますが、本邦の飼育者にとっても、ハリスホークによるこうした周囲にある“おもちゃ”の誤飲は、珍しい話ではないはずです。このトリは装具や周辺にあるモノを破壊する事を楽しむ傾向があるので、ジェスを飲み込んだり、装着されている発信器を破壊した(あるいは一部を飲み込んだ)という事故は、よく耳にします。同様に、フクロウ類は、周囲にある、手袋、靴下、スポンジ、ひも、小枝(体格によるが、20センチ程度あっても飲み込む事がある)などを飲み込むので、誤飲される可能性のある何らかのアイテムを、トリ達の周囲に提供するべきではありません。これには、カーペットの裏地に貼られている両面テープなども対象になります。

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(図4.大緒で遊ぶハリスホーク。中には、事故を起こす個体がいる)

3. 過量な食餌の摂取と消化管の運動性の低下による閉塞
 これは、いわゆる“酸敗嗉嚢(Sour Crop)”の、最もよくある発生のパターンです。酸敗嗉嚢(そのう)自体は、どのパターンの閉塞であっても嗉嚢(そのう)内に食物が長時間残っていれば、発生します。痩せている猛禽類が大量の食餌を食べた場合や、疾病状態にある猛禽類に(相対的に)“大量の”食餌を与えた場合、つまり、その時点で消化管が適正に運ぶ事の出来る量以上の食餌が嗉嚢(そのう)内に収納されてしまうと、嗉嚢(そのう)内の食物塊は、(例えそれらが細かく刻まれていたとしても)なかなか移動してくれないので、内容物が腐敗し、酸敗嗉嚢(そのう)が発生します。この疾患は、緊急性の高い事故なので、摂食後6時間が経過しても、嗉嚢(そのう)内容の移動が終わっていない場合は、早急に動物病院を受診する必要があります。
 痩せた、あるいは弱ったトリが居た場合、つまり、増体させる事が望ましいシチュエーションでは、頻繁で、少量ずつの、ペリットの材料を含んでいない、消化しやすい食餌(例えば、皮を剥いたひよこ(初生雛)を刻んで)を与えるべきです。この方法では、嗉嚢(そのう)が空になったらすぐに、次の食餌を与える事が出来ます。

オオタカ
(図5.来院直後に死亡したオオタカの嗉嚢(そのう)内と前胃には、大量の食餌が残存していた。拡張した嗉嚢(そのう)と前胃に注目)


4. ペリットとその材料による閉塞(雛鳥と産卵期の雌鳥の問題)
 雛鳥や産卵期のトリ達を扱う事は、猛禽類の診療では珍しいので、以下に、参考文献の記載を引用致します(1)。
 ペリットの材料となるモノは、12日齢以下の雛には与えるべきではありません。コチョウゲンボウの様な小型種では、20 日齢まで与えてはいけません。雛達は、それがひよこの綿羽ならかなり容易に処理出来るのですが、特に“ハードな”ペリットの材料、 すなわち、 げっ歯類の毛皮の様なペリットの材料を与える場合は、 こういうルールが適応されていなければなりません。幼い雛達は、ふつう、こうした素材を吐き出す事が出来ないので、結果として、前胃での閉塞が発生しその患者は死亡してしまいます。
 卵胞が発達しており、卵管が活動期(産卵期)にある繁殖中の雌鳥は、体腔に余裕が無いので、ペリットが大きすぎると吐き出せない事があります。産卵前の雌鳥では、ペリットの材料を増やすよりはむしろ減らすべきです。通常、猛禽類は、食後 8-16 時間でペリットを形成します。トリ達には、ペリットを排出するまで、次の給餌を行ってはなりません。ペリットの排出前に次の食餌が与えられると、小腸に閉塞が起きる事があります。

 消化管に閉塞を起こしている可能性のある猛禽類の診察と治療は、イヌやネコの診療の様に外科手術に重きを置いた診療の流れをしておりません。その殆どは内科的な治療によって軽快出来るので早期の来院“念のため”の来院によって、長期の経過観察を選択している間にトラブルを回避出来る症例が数多く存在します。
 逆に、内視鏡による異物の摘出や、比較的安全性の高い嗉嚢(そのう)を経由した前胃の手術を実施する為には、“患者を選ぶ”ので、あまり実施しておりません。唯一安全に実施出来るのは、嗉嚢(そのう)の手術のみです。これら以外、つまり、前胃より後方の筋胃、腸管の手術は、予後の厳しい手術になるので、通常は選択しません。(可能であれば閉塞が発生したと考えられる当日より)早期に来院して治療を行っていく事で、手術の必要性を極端に減らす事が可能です。


特記事項
全体に、調教のために痩せさせている、1年目の若い雌の猛禽類に多い事故です。
解体が困難な事のある“大きな”飼料には、給餌の前にハサミを入れるかハンマーで砕くなどの前処理が必要です。
人前で落ち付いた挙動で餌を獲る事の出来る猛禽類を手にする事は、全ての猛禽類飼育者の理想とする調教目標の一つです(“丸い鷹”)。がんばりましょう。
特定の異物に明らかに興味を示す事が分かっている、ハリスホーク、フクロウ類には、その様なモノを提示してはいけません。

参考文献
1) N. A. Forbes, RAPTOR NUTRITION: What we feed them, what goes wrong , how we deal with it., Veterinary Conference, Doha January 2014
2) Raptors, Pigeons and Passerine Birds, p199, BSAVA, 2008
3) Raptors, Pigeons and Passerine Birds, p268, BSAVA, 2008

プロフィール

わたらい先生

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ま、いいじゃないか(^^;

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