TRD(Tick Related Disease)

 本邦での発生があるのかは不明ですが、マダニが関与するユニークな疾病にTRD(Tick Related Disease)というのがあるので、紹介させていただきます。

 この問題は、飼い主にも容易に見つけられる上に、早期に簡単な処置を行う事で良好な結果に辿り着く可能性が高い(さもなければ急死する危険がある)、飼い主の知識だけがトリ達を救う疾病であるからです

2014-06-11 10.20.19
(図1.イヌから得たマダニの標本。これだけの大きさの外部寄生虫ならば、飼い主にも容易に発見可能である。付着したばかりのマダニは、ごく小さいサイズをしている)

 
 この疾病は、英国で報告のある風土病で、地理的に対岸に当たるフランスでも見つかっております(1)。疾病の名称は一定しておらず、Tick related syndrome(1)、Tick related disease(2)、Tick reaction(3)が使われています。治療の経過が似ているので、Tick pyaemia(6)も使われますが、これは現地のヒツジのエールリヒア症の俗称であり、同一の疾病ではない事が分かっています。
 マダニは、英国では季節性に大量発生する時期があり(8月と9月)、その時季に合わせて本症は多く発生しています。マダニが咬着したトリ達には激しい症状が現れ、典型例では突然死ないし急激な衰弱が観察されます。症状が穏やかな症例では、顔や首の出血、激しい痛み、まぶたや顔、首の腫れが見つかります。

 マダニの咬着は、色々なトリ達で見つかります。2006年の報告では、届けられたマダニ検体の総数70の内、その宿主は、猛禽類35、インコ・オウム類が10、ハト類が13、フィンチ類が8、その他には、ガンカモ類、キジ目の鳥、海鳥が含まれていました。猛禽類の感染は最多で、生きた状態で持ち込まれたトリ達の生存率は11/19(57.9%)でした。突然死していたと報告のあった遺体の内、インコ・オウム類が8/15(53.3%)、フィンチ類が5/15(33.3%)という構成でした。治療を行った時の生存率は、別の報告にある未処置時の48%に対して9/12(75%)でした(1)。

 この疾病の原因は、マダニが起点となる事以外、詳しい事が分かっておりません。マダニが咬着の際に注入した毒素による (4,5)、ダニ媒介疾患、あるいはアレルギー反応によるのではないかという諸説があります。
 英国でマダニ(Ixodes ricinus)が引き起こすヒツジのダニ媒介疾患の治療に、鳥類の患者達はよく反応するので、何らかの感染症が疑われ、調査が行われました。結果、本症には、Borrelia burgdorferi Bartonella spp、Babesia spp、Ehrlichia sppといった主要なダニ媒介疾患の病原体が、関与しない事が分かっています(1)。
 現在では、この疾病の原因となったマダニは、一般によく知られるIxodes ricinusではなく、Ixodes frontalisという、鳥類に宿主特異的な新種のマダニであった事が分かっているので、この疾病は、鳥類の、Ixodes frontalis独自の問題らしいと考えられています。
 ただし、この先については、まだまだ研究の途上です。

 “マダニに咬まれたトリ達が急死する事がある”、“急いで、必要な処置を受けると回復が起きる”。飼い主の方達は、この2点を覚えておけば十分です。
 対象鳥種は、インコ・オウム類フィンチ類です。
 猛禽類に被害がある事は間違いないのですが、どの原著を探しても“猛禽類”の内訳が判然としておらず、症例として紹介されている写真が全てフクロウ類に偏っているので(1,3)、特にフクロウ類を飼育している猛禽類飼育者は、注意した方が良いかもしれません。

 本邦に、Ixodes frontalisというマダニが生息しているという情報は無いのですが、元々、マダニは野鳥等に付着して移動する事のある生物であり、英国やヨーロッパから本邦に輸入される鳥類は毎年かなりの数が存在します。また、木材や農産物等に付着したマダニの移動についても考慮されます(図2を参照のこと)。情報不足で調べられていないだけという事もあるでしょうし、“いつの間にか”侵入してきたマダニにより、本邦でもこういった疾病に遭遇する日が来ないとも限りません。
 飼い主の皆様におかれましては、“念のため”、こうした寄生虫がトリ達の体に付着しているのを見つけたら、動物病院を訪れて適切な処置を受けることをお勧め致します

201602201607312f6.jpgマダニ咬着
(図2.貿易港では、輸入した材木の中に現地のヘビが紛れ込んでいるのが発見される事がある。このヘビには、おそらく現地のモノと考えられるマダニが付着していた)

参考文献
1) Monks D, Fisher M, Forbes NA., Ixodes frontalis and avian tick-related syndrome in the United Kingdom., J Small Anim Pract. Aug;47(8):451-5., 2006
2) Forbes NA., Tick related disease in cage and avirary birds,
http://www.gwexotics.com/
3) Raptors, Pigeons and Passerine Birds, p274, BSAVA, 2008
4) 猛禽類,ハト,水鳥マニュアル, p140, 学窓社, 2003
5) オウムインコ類マニュアル, p97, 学窓社, 1999
6) Forbes NA., First Aid and Emergency Care of Falconry Birds, The World of Falconry, July 2013
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ま、いいじゃないか(^^;

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