用語解説 ジアルジア症

 鞭毛虫類の中で、“キチンと説明しろ”という事を言われた時に、一番困るのは、この原虫かもしれません。
 特に鳥類に関しては、意外にも、情報がある様で無いのがこの寄生虫に関する記述です。
 
 犬猫、あるいはヒトで有名なジアルジアに、ランブル鞭毛虫(Giardia lamblia, 異表記G. intestinalisがあります。この原虫は、人獣共通感染症として、ヒトの医療情報について紹介しているサイトで容易に詳しい解説を読む事が出来るので、詳細な説明は省きます。

 Giardia spp.の種名については混乱があります。上記のランブル鞭毛虫では、同一種に対してG.intestinalis (ヨーロッパ)とG.lamblia (アメリカ)という学名が用いられ、他の哺乳類から分離された同一形態の株にも(犬猫以外にも、ウシ、ビーバー、シカ、ヒツジなどがある)、それぞれに別の種名があります。これらは、宿主動物毎に独立種とする考え方から行われた命名ではあったのですが、“人獣共通感染症”の名が示す通り、この内の全て、あるいはいくつかが変異株に相当する同一種なのではないかとする説もあった事から、別種の様であり一つの種の様でもあるという、判然としない説明と取り扱いが行われて来ました。

 こうした事情の折り重なりから、命名規約に従って一番初めに報告されたウサギに由来するG.duodenalis という種名に先取権があるとして、欧米の学名に更に1つが加わり(G.duodenalis )、我が国では“ランブル鞭毛虫”の和名が定着してしまっているので、G.intestinalis G.lamblia G.duodenalis の3種の種名を併記し、本来なら、種名は一つでいいはずなのに同時に理解させるという事が行われています(さらに、実際の学問の世界では、G.lamblia は、もはや使われなくなってきている)。

 似た様な話が鳥類でもあるのですが、この先の情報が整理され切っておらず、上手く説明出来ません。分類が未整理という事は、結果として、必要以上に情報が分けて考えられたり、全てが混ざって一つにまとめられてしまうという事が起きてしまい、混乱ないし未整理なままの情報が存在しているという事になるからです。

 インコ・オウム類ではジアルジア症が毛引き症の原因に成るなど、中には特徴的な症状があるのですが、上述の理由から、ここでは述べません。重要な事なので一つだけ断っておくと、鳥類のジアルジアはヒトには伝染しません。ハッキリ言い切っていいのはこの一点のみで、肝心の、鳥類で見つかるジアルジアにどういう種があって、それ(ら)がどういう病原性やどういう宿主に分布しているのかを、現状では“正しく”述べる事が出来ません。

 鳥類で、“ジアルジア”とされている病原体には、“少なくとも2種が存在する”という書き方がされます。
 その2種とは、G. ardeae(ardeaeは、サギ科という意味です)G. psittaci(psittaciは、オウム目という意味です) の2種です。ところが、Giardia spp.宿主について調べてみると、サギ、サンカノゴイ、シラサギ、ソリハシセイタカサギ(ここまでがサギ科のトリ達です)、オカメインコ、セキセイインコ、ボタンインコ、コニュア(メキシコインコ類)、ボウシインコ、バタンインコ類、コンゴウインコ類(ここまでがオウム目のトリ達です)、イエスズメ、ニシマキバドリ、セアカモズ、オオハシ(これらはスズメ目のトリ達です)、ヒメコンドル(タカ目)などでGiardia spp.は見つかる事になっており(1)、この中には、明らかに上述のジアルジア種に適合しない宿主が現れます。すなわち、現在でも鳥類のジアルジアには、まだ未分類になっている種が存在するのです(スズメ目以外にも、チドリ目、キツツキ目などが未整理になっている(2))

 また、一部の鳥種では、“ランブル鞭毛虫”が見つかっているので、鳥類のジアルジアはヒトには伝染しないという原則論自体が、まだ確定的とは言えないという見解も存在します(ランブル鞭毛虫が見つかった鳥種が宿主なのか、摂食等により一時的に保菌していただけなのか、結論が出ていない)。すなわち、現状では、“さらなる研究が待たれる”としか言い様が無いのがジアルジアの研究分野なのです(2)。

 ジアルジアの分類上の位置は、ディプロモナス目ヘキサミタ科ジアルジア亜科ジアルジア属という事になっています。
 既に述べたヘキサミタ(ディプロモナス目ヘキサミタ科ヘキサミタ亜科スピロヌクレウス属)、コクロソマ(トリコモナス目トリコモナス科コクロソマ属)、さらにトリコモナス(トリコモナス目トリコモナス科トリコモナス属)を加えると、飼い鳥に感染する鞭毛虫類は網羅するのですが、こうした鞭毛虫類は、近い位置にある種ほど形態などに“似ている”部分があり、いわゆるラボラトリーレベルの検査を行わなければ完全には識別出来ない事があります。

 具体的には、これらの診断には、大量のサンプルの確保、あるいは間欠的な糞便中への排出に対応する為の頻回な採材、複数の染色法の実施、ELISA、PCRなどによって“診断”を行う必要があるので、診察室で行う簡便な検査では誤診率が高くなる、あるいは完全な診断には至らない傾向があります。
 こうした鞭毛虫類は、意外に正確な診断が為されておらず、むしろ文献などによる他の情報からの補正によって“診断”が行われている実態があるので(オカメインコならヘキサミタという様な?)、もしも、診断に対する精度が求められる場合は、相応の診療機関を受診する必要が生じる場合があります。

 幸いにも、こうした寄生虫に対する治療フォーマットはほぼ同一なので、診断の精度を求めずとも治療は十分なモノが行えます(つまり、問題を起こしている寄生虫の種名が間違っていたとしても、実際の治療は同じ)。しかしながら、この事が理由となって、感染する寄生虫ソノモノへの獣医師の理解が十分に為されていない場合が多いのも、これらの寄生虫です。

参考文献
1)鳥類の内科学と外科学, NEW LLL PUBLISHER, 2008
2)Giardiasis,The Center for Food Security and Public Health, Iowa State University ,December 2012
http://www.cfsph.iastate.edu/DiseaseInfo/index.php

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ま、いいじゃないか(^^;

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