用語解説 コクロソマ症

 いわゆる“Canker”、つまり、鳥類の口腔内に独特の病変を来す疾病(口周囲潰瘍)は、従来トリコモナス症と呼ばれ、その病原体はTrichomonas gallinaeであるという様な説明をされてきたのですが、情報の整理が進み、Trichomonas spp.が病因となる鳥種はハトや猛禽類であり、他の鳥種で“トリコモナス症”ないし“トリコモナス様原虫”と呼称されていたのは、同じく鞭毛虫類であっても、完全な別種による場合がある事が広く認知される様になりました。
 こうした中で、特に十姉妹で見つかる“トリコモナス症”には、“コクロソマ症(Cochlosomosis)”と呼んだ方が正しい場合があるというのが、現在の常識です。

 Cochlosoma spp.は、本邦では、コクロソマ、あるいはコクロソーマと表記されている、レトルタモナス目コクロソマ科コクロソマ属の原虫です。原生生物図鑑(http://protist.i.hosei.ac.jp/taxonomy/menu.html)の表記では、コクロソマが使用されているのでコクロソマ症を用いています。
 分類上の位置付けには変遷があり、トリコモナス目トリコモナス科コクロソマ属というのが、最近の分類になるらしいのですが(Wikipedia調べ)、いずれにせよ、いわゆるトリコモナスとは別種です。

 フィンチに寄生するコクロソマ属は種が定かではないので、Cochlosoma spp.あるいはCochlosoma anatis 様原虫と表記されます。Cochlosoma anatis は、シチメンチョウで見つかる腸炎の原因となる原虫です。形態が似ているという事は、同種の可能性があるという事ですが、その辺りの情報が不足しています。
 感染の報告は、セイキヒノマルチョウ(Erythrura cyaneovirens)、十姉妹コキンチョウで一般的で、ナンヨウセイコウチョウ(Erythrura trichroa)、キンカチョウ、コマチスズメ(Emblema pictum)、シマキンパラ(Lonchura punctulata)、カノコスズメ(Taeniopygia bichenovii)でも見つかる事があるそうです。このトリ達は全て、(元となった文献、つまり海外では)ペットショップで売られているトリ達です(1)。

 ここで例示した以外のフィンチで、いわゆる“Canker”が見つかった場合、その病原体はTrichomonas gallinae(トリコモナス症)である可能性が高くなるのですが、確実な事を言う為には、相当数の標本を作製し、正しくその“Cochlosoma anatis 様原虫”ないし“Trichomonas gallinae様原虫”の形態を評価するなど、時間と労力の要る検査が必要になるので、一般の診療室レベルでは、知見に基づく暫定的な診断が主になります(つまり、十姉妹だからコクロソマ、文鳥だからトリコモナスという様な?)。実際上、治療は同じになるので、こういう事が可能になります。

 Trichomonas gallinae感染の報告のある鳥種は、ハト、猛禽類以外では、セキセイインコ(近接するスズメ目のトリへの汚染原になるとも言われている)、コマツグミ(Turdus migratorius)、アオカワラヒワ(Carduelis chloris)、ズアオアトリ(Fringilla coelebs)があります(3)。こうした報告は、ある程度の被害があったという前提での報告になるので、名前が挙がってこない、(野鳥も飼育種も含めた)多様なスズメ目のトリ達もTrichomonas gallinaeに感染します。これら以外では、家禽の七面鳥、ニワトリ、ウズラもTrichomonas gallinaeに感染します(4)。

 英国では、2005-2009年頃にかけて野生のスズメ目のトリ達(イエスズメ、ヒワ、ゴシキヒワ、ウソなど)に被害をもたらしたTrichomonas gallinae強毒株に、よく似た遺伝子サンプルが、ハトや猛禽類からも得られた事が報告されています(5)。このことは、猛禽類は捕食によって獲物からTrichomonas gallinaeに感染する生き物なので、おそらく野生のハトにはスズメ目に対して病原性の強いTrichomonas gallinaeを保菌している個体が存在するのではないかという事を示唆しています。この強毒株は、その後英国から中央ヨーロッパへと広がりを見せていったそうなので、将来的に日本でもこういった被害が報告される日が来るのかもしれません。
 こうした知見は、おそらく本邦でも、飼い鳥への寄生虫の被害を防ぐためには、野鳥との直接間接の接触を最小限度に留める努力が必要であるのだという、裏付けの一つになると考えられます。

参考文献
1) Filippich LJ, O'Donoghue PJ., Cochlosoma infections in finches., Aust Vet J. 1997 Aug;75(8):561-3.
2) BSAVA Manual of Raptors, Pigeons and Passerine Birds, BSAVA, 2008
3) María J. Forzán, Raphaël Vanderstichel, Yuri F. Melekhovets, Scott McBurney, Trichomoniasis in finches from the Canadian Maritime provinces —An emerging disease, Can Vet J 2010;51:391–396
4) N. Begum, M.A.A. Mamun, S.A. Rahman and A.S.M. Bari, Epidemiology and pathology of Trichomonas gallinae in the common pigeon (Columba livia), J. Bangladesh Agril. Univ. 6(2): 301–306, 2008
5) JEAN F. CH, BECKI LAWSON, CHRIS DURRANT, KATIE BECKMANN, SHINTO JOHN, ABDULWAHED F. ALREFAEI, KIM KIRKBRIDE, DIANA J. BELL, ANDREW A. CUNNINGHAM, KEVIN M. TYLER, The finch epidemic strain of Trichomonas gallinae is predominant in British non-passerines, Parasitology / Volume 140 / Issue 10 / September 2013, pp 1234-1245, DOI: http://dx.doi.org/10.1017/S0031182013000930

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