用語解説 red factor canary

 カナリアについて調べていくと、“赤カナリア”という品種について、その独特な背景について理解する必要が生まれます。

Serinus canaria Rosso Intenso
(Wikipediaより。“red factor canary ”)
 本来のカナリアは、黄色い羽毛をしたトリ達です。
 品種改良の方法にはいくつかありますが、野生種を継代していく内に表れた突然変異を固定していく内に初めに表れたのが、各種の黄色いカナリア達であったと考えられます。カナリアの飼育はおおよそ14~15世紀頃に始まった事になっているのですが、各品種の詳細な歴史について調べようとしても、あまりにも古い時代の話になる所為なのか、上手く行きません。

 赤カナリアは、1920年代のドイツで作出された品種です。1934年のアメリカという記載も見つかります。繰り返しになりますが、こうした品種の固定の歴史について、詳細な情報を得ようとするのはとても難しい事である様です。

 本邦では、羽毛全体が赤いカナリアを“赤カナリア”と呼ぶのが普通ですが、海外で飼育されている赤カナリア、つまり“red factor canary ”の画像を調べていくと“Mosaic Canary”などの赤一色ではないデモフィック、アプリコットなど品種が存在するので、この言い方の方がむしろ実態に則している様に感じられます。ただし、実際のところ、この“red factor”とは、羽毛を赤くする遺伝的な因子の事であって、羽毛の色合いを説明しているのではありません。
 “赤カナリア”は、突然変異によって得られた品種ではなく、近縁な他種からこの“red factor”導入した品種です。

 赤カナリア(Red factor canary)は、ショウジョウヒワとの間に得たミュールを、戻し交雑によって品種として固定していったモノです。
Cucullatamachocolombia
(Wikipediaより。ショウジョウヒワ)

 画像を一見したところ、ショウジョウヒワの赤い色を、黄色いカナリアに移し替えただけの様にも見えますが、この時導入された“red factor”には、特徴がありました
 この因子は、摂取したカロテノイド体内で赤い色素に変換してから羽毛に蓄積させるので、必要なカロテノイド換羽の時期に与えなかった場合、トリが赤くなりません
 この性質は、そもそものショウジョウヒワが持っていた性質で、この鳥種は何もしないで自然に赤くなる様な鳥種ではなかった事がよく分かっていなかった当時、“何故上手く行かないのか?”、作出に当たった人達を随分悩ませた問題であった様です。

 “red factor”によって起きるカロテノイド色素の変換には、以下の様なモノがある様です。

ルテイン         →  α-ドラデキサンチン
ゼアキサンチン     →  アスタキサンチン
β-カロテン       →  カンタキサンチン
β-クリプトキサンチン →  アドニルビン

 こうした色素は、本来の黄色いカナリア達では、摂取後カナリアキサントフィル(黄色)に変換された後に羽毛に蓄積したはずの色素ですが、“red factor canary”では赤い色素に変換されて羽毛に蓄積します。

 以上の理由により、“赤カナリア”には換羽期間中に色素の元となるカロテノイドを与えなければ、赤い羽毛が生えてきません。また、一旦赤い羽毛に成ったとしても、その赤色は次の換羽には全て“やり直し”になります

 本邦では、“赤カナリア”を赤くする為に色揚げ剤(増色餌とも言います)が用いられます。これは、欧米で行われている方法とは異なるのですが、原理は同じです。すなわち、赤い色の元となるカロテノイドの供給がその目的です。
 色揚げの“揚げ”というのは、向上させるという意味の“あげる”ではなく、天ぷらを揚げる時の“あげる”であると言われます。正確な作り方は不明ですが、β-カロテンなどの色素をパン粉などに練り込み油で揚げたモノを基本としている事から、油分の過剰摂取により、トリ達の健康と寿命に影響を与える懸念が昔から言われています。
 欧米で行われている方法は、カンタキサンチン(carophyll-red)やβ-アポ-8'-カロテン酸エチルエステル(carophyll-yellow)を混合した“carophyll-orange”などの合成着色料(カロテノイド)を、直接飲水に溶かして与える方法です。この方法だと油分の過剰摂取の問題はクリア出来ているのですが、工業的に石油から合成された色素を使っているなどやはり問題があるので、肝毒性などの健康被害の懸念が表れます。また、色素の調合によっては羽毛に焼け(burnt)が表れる事があります。

 色揚げの方法については、愛好家達の間でも様々な持論のあるところなので詳述は避けますが、臨床獣医師は、何故その様な方法を採る必要があり、その方法を選択した際に起きる可能性のある問題について、知っておく必要があります。

 “red factor canary”は、“color canary”すなわち本邦でいう所の色物カナリアの一種になりますが、実際には様々な色彩があるにもかかわらず、英文の説明の中には“color canary”=“red factor canary”という説明を行っている場合があるので、混同しない様に注意が必要です。

参考文献
わたらい訳, 『Raptors, Pigeons and Passerine Birds』(BSAVA, 2008)より 33章 スズメ目の鳥類;栄養および栄養性疾患(ver.5.6), 2015 

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ま、いいじゃないか(^^;

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