用語解説 ブユ(ブヨ、ブト)

 ヒトでは“ブユ刺症”と呼ぶ様ですが、ブユは、蚊の様に刺して吸血を行うのではなく、皮膚を咬んで出血させてから吸血を行う昆虫です。
Black Fly
(Wikipediaより。“ブユ”)

 ブユは地域によってはブヨ、ブトとも言い、医療の分野では吸血昆虫あるいは衛生昆虫という言い方がされます。
 ブユによる被害は、直接的な被害と間接的な被害に分けられます。

 ヒトで有名なのは直接的な被害の方であり、ブユ刺症と呼ばれます。すなわち、ブユに咬まれると、個人差の大きい局所の腫脹が現れます。これは、吸血の際、ブユの唾液に含まれる成分に対してアレルギー反応を起こす患者がいるのが原因であるとされ、その期間は1~3週間程度とされています。
 筆者もそうなのですが、3週間程度続く“医者に行かなければいけない”かなりヒドイ腫れ方が普通なので、蚊に食われた程度では済まされません。
 
 鳥類で、この様な直接的な被害に関する文献を探すのですが、上手くいきません。おそらく、ヒトの様なアレルギー反応が起きにくく、外観に異常が現れにくいのが理由であるからではないかと考えられるのですが、ハッキリとした事は言えません。
 当然ですが、吸血による不快感など治療の必要がある時は、ヒト同様に消炎剤や抗生剤を処方し様子を観る事になります。昆虫の種類が特定出来ない場合は、マダニなど、他の有害な昆虫に咬まれている時の条件も考慮に入れて治療を組み立てます。

ベンガルワシミミズク
(当院症例より。ブユ咬傷によると考えられるベンガルワシミミズクの蝋膜周辺の羽毛の減少)

 直接的なブユによる被害の報告は雛鳥に集中しており、“ブユはアカオノスリ(Buteo jamaicensis)の巣内雛や、コチョウゲンボウ(Falco columbarius)の巣内雛を殺し、ケープシロエリハゲワシ(Gyps coprotheres)の巣内雛を弱らせた(1)”とあります。いずれも非常に古い文献からの引用であり、トラブルの内容が、不快感やアレルギーあるいは局所~全身への毒素の影響によるモノであるのか、吸血による貧血にあるのか不明です。
 すなわち、文献を調べて分かる事といえば、“雛鳥の場合、ブユの吸血程度でも死ぬ事がある”ので、繁殖施設やリハビリ施設には、こうした衛生昆虫を近づけない様にした方が望ましいという事のみです。

 “ブユ”自体は、猛禽類だけでなく、インコ・オウム類やニワトリなどの家禽を扱っている書物に、必ず登場する衛生昆虫です。この昆虫が有名なのは、鳥類に寄生するロイコチトゾーンの媒介である為です。
 この場合、ブユに咬まれていたとしても直接の影響は見つからない事の方が多く、後日臨床症状が現れた時か、血液検査によって偶然ロイコチトゾーンの寄生が見つかる事になるので、いつ“そういうこと”があったのか分からないのが普通です。つまり、影響は間接的であったという事になります。

 一つ断っておかなければならないのは、西洋の書物では、ブユ=ロイコチトゾーンあるいはブユ、ヌカカ=ロイコチトゾーンという書き方が普通になりますが、東洋、つまり日本を含めたアジアの国々ではヌカカ(蚊ではありません)こそが重要な媒介であり、我が国の、特に家禽のテキストでは、むしろ“ブユ”という情報の方が消されている事があるという点です。

 ロイコチトゾーンの媒介は、ヌカカまたはブユです。ロイコチトゾーンは種特異性の強い病原体なので、例えば鶏ロイコチトゾーン症(Leucocytozoon caulleryi)はヌカカによって媒介されますが、この病原体がヌカカの吸血によってインコ・オウム類や猛禽類に感染するという事はありません。つまり、いずれの飼い鳥で見つかるロイコチトゾーンも、そのトリがニワトリでない限り、鶏ロイコチトゾーンとは別種のロイコチトゾーンになります。
 同様に、こうした、他の鳥種で見つかるロイコチトゾーンは病原性においても鶏ロイコチトゾーン症の場合と異なります。すなわち、無症候から巣立ち雛で重視、ストレス時に重視など、様々な記載が見つかります。
Leucocytozoon caprimulgi 1913
(Wikipediaより。ロイコチトゾーンの診断には、ギムザ染色により、赤血球内に寄生するメロゾイトあるいは血球外のガメトサイトの検出を行います。本種は、ヨタカで見つかったLeucocytozoon caprimulgiのガメトサイトのスケッチです)

 血液塗抹標本を観察すると見つかる事のあるこうした住血寄生虫に対して、飼い鳥についても同様の昆虫による媒介が起きているのだろうという事が言われておりますが、例えばフクロウ類などで見つかるロイコチトゾーン(鶏とは別種)が、鶏ロイコチトゾーンと同一の感染環を持っているのか(?)、実際の媒介昆虫は蚊なのかブユなのか(?)などについて詳しく調べた報告が無いので、推測の域を出ません(→防除対策が異なる事のある2種の衛生昆虫)

 殺虫剤による防除について述べられている文献がありますが、有効性と安全性の評価が未知数になるので、一般的な予防法について述べるにとどめます。
 その予防法とは、ブユの幼虫は蚊と同様に水中生活を営むので、トリ達の近くにある水入れの管理を怠らないこと、ブユに咬まれやすいとされる朝夕や曇天の日にはトリを屋外に出さないこと、幼虫は特に清流を好むとされるので、山間部では特に注意することです。

参考文献
1)病理学, 猛禽類学p299-p336, 文永堂出版, 2010

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ま、いいじゃないか(^^;

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