用語解説 fovea(中心窩 側頭窩)

 ヒトの目の解説を読んでいくと、網膜の説明の中に“中心窩”というモノが見つかります。英語表記は“fovea”です。
 鳥類の目の解説を読んでいくと、やはり“中心窩”というモノが出てまいりますが、これにはかなりな間違いが含まれています
 
 中心窩というのは、網膜上の視細胞が集まった“よく見える場所”を言います。難しい言葉を使うならば、視軸あるいは光学軸(visual line)が、(おおよそ)この場所に位置します。他にも色々な説明がありますが、とりあえず、コレで理解出来ます。
Fundus of eye normal
(Wikipediaより 健康男性の眼底写真。中心のやや左にある暗い箇所が“中心窩”です)

 哺乳類で、中心窩があるのはヒトを含めた霊長類だけです。犬猫にはこの構造が無いので、網膜中心野がこの構造に代替します。こうした説明を読んでいくと、ドンドン難しく感じる様になりますが、基本は、視軸(光学軸)の先にある“よく見える場所”の事を専門用語で言っているだけです。視細胞が集まっている構造のある生き物は、基本“目の良い生き物”という事になります。

 鳥類には、この生き物は目の良い生き物なので、ヒト同様に“中心窩”が存在します。英語表記は“fovea”です。
 鳥類には、眼が正面にある鳥種と真横にある鳥種があり、非常に広い視野を持っている種も少なくありません。
 鳥類の眼球自体は、可動性には富んでいないので、固定式のカメラと同じです。眼が横にあるという事は、その眼球(カメラ)は真横を向いている訳ですが、外敵から身を守る、獲物を探すなど、その状態で広い視野を得るためには、正面ではなく真横も見る必要が現れます。
20101125 004

 この問題を解決するための方法として、ヒト同様に正面を見るための光学軸(中心窩)だけでなく、横方向を見る為の光学軸(側頭窩)の両方を一つの眼球(カメラ)に搭載している鳥種がいます。
Chileaneagleretina
(Wikipediaより ワシノスリの眼底。Bifoveateと呼ばれる、foveaが2つある網膜をしている)

 ここで、一つの誤りが発生します
 本邦の鳥類眼科学のテキストで日本語で書かれているモノはとても少ないので、情報の取得は英文に頼っています。英語の辞書では、“fovea=中心窩”という事が書かれていますが、これはヒトの目を基準にしているので(ヒトの眼球で見つかるのは“中心窩(fovea)”のみ)、他の動物種の事情を考慮した訳ではありません
 正しくは、“fovea”とは“窩(小さな穴)”の事であり、“中心窩”の事を言っている訳ではありません

 この辺りの誤解から、“鳥類の眼底には中心窩が2つある”という記載を時折見つける様になるのですが、これは英文資料を読んでいる内に発生した誤訳で、“鳥類の眼底にはfovea(窩)が2つある”が正しい意味になります。この2つとは中心窩(central fovea)側頭窩(temporal fovea)の事であり、この2つは光学軸が異なります。

 こうした特徴の違いから、鳥類の網膜(眼底)は3つに分けられています。こうした情報は、本邦ではあまり紹介されてこなかった様です(1)。
Afoveate:このタイプには中心窩が無く、網膜中心野(area centralis)あるいは眼の光学軸(visual line)が存在し機能します。このタイプは、家禽の大部分や陸鳥(Land birds)、水鳥で見つかります。
Monofoveate:ひとつの側頭窩(大多数の鳥類)あるいは、ひとつの中心窩(フクロウ、アマツバメ)を備えたタイプ。
Bifoveate:(メインの)中心窩と(サブの)側頭窩の2つの窩を備えたタイプ。(昼行性の猛禽類スズメ目のトリ達(のいくつか)、その他飛翔して狩りを行う鳥種)。

 鳥類の眼球は固定カメラの様なモノなので、カメラとしての視野(range)のみを基準にした場合、見えない範囲がかなり出来てしまう鳥種が現れますが、こうしたトリ達は首がよく回るなど、他の方法でも視野の不足を補う事をしているので、簡単に“見えない”という状況には陥りません。
 結論として、臨床獣医師が理解しておくべき要点は、機能に関する理解よりもむしろ、(眼底検査の際の)鳥類の眼球構造の特徴について覚えておく事の方でしょう。

参考文献
1)A. Bayón, RM. Almela, J. Talavera, Avian ophthalmology, EJCAP - Vol. 17 - Issue 3 December 2007

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ま、いいじゃないか(^^;

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