用語解説 蹠行姿勢→“かかとで歩いている時の様な姿勢”

 蹠行(しょこう、せきこう)というのは、そもそもが哺乳類の歩き方を説明している用語になるのですが、この言葉を鳥類で使うと、少々妙な事になります。
 
 蹠行の“”というのは、“あしのうら”の事を言っています。この“あしのうら”というのはヒトのあしのうら”の事を言っているので、ヒトの歩き方を指して“蹠行性”と言います。似た様な歩き方をする蹠行性動物には、ヒト以外では、クマなどがあります。
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 ヒトの“あしのうら”というのは、つま先からかかとまでが、地面にべったりと接地しています。この状態でテクテク歩くことを、蹠行と言います。
 一方で、かかとが地面から浮いているのが普通である生き物は数多く存在し、その状態で歩きます。犬や猫、鳥類もコレに該当します(趾行性)。
神楽っ子とその仲間達20070809 (1)

 雛鳥がこの様な姿勢(↑)をしているのは、珍しい事ではありません。むしろ、これから立ち上がる事が上手くなっていく成長段階にあるトリの話ですから、正常な事です。ただし、この状態で、かかとを地面に付けたまま器用に歩く事は出来ないので、立ち上がらなければ、移動もままなりません。

 鉛中毒など、神経系のトラブルを起こしている鳥類では、本来そんな姿勢をしているはずのないシチュエーションで、この、雛の時に見かける姿勢がみつかります。これは異常な事なので、テキストには“plantigrade stance(蹠行姿勢”とか、“dog-sitting posture(犬座姿勢)”と記載され、特徴的な所見の一つとして紹介されています。
 “蹠行姿勢”というのは、犬猫でもよく使われている、いわばテンプレートな訳語(専門用語)なのですが、相手が犬猫でないという事になった時に、原義から離れた日本語に成ってしまっている事に気付かされます。
 “蹠行”というのは歩く様子を説明している言葉なので、前提としてその患者は歩いている時の様子が“蹠行”になっているはずです。ただし、実際に、この姿勢をしているトリがかかとを使って歩くのは、ほぼ無理です

 その矛盾を考察していく内に、この言葉は歩様を説明しているのではなく姿勢を説明する為の言葉でなければならなかったのだという事に気付くのですが、犬猫で“蹠行姿勢”を見つけた時、その患者は、“歩いて”、つまり“蹠行して”いる事が多いので、日本語のイメージから来るミスリードのまま、原義との齟齬が生じていた用語を、“日本風に”解釈し使っている、そういう獣医師が世間に大勢居たらしいという事に気付かされました。つまり、大勢の日本人獣医師にとって、“蹠行”と“蹠行姿勢”は同義語として解釈・使用されているという事です。
 もちろん、犬猫の診療をする限り、この理解でも特に問題は起きません
2015-04-30 17.21.01
(“蹠行姿勢”のネコ。かかとの位置に注目)

 “plantigrade stance”を調べ直していくと、“plantigrade”には、“蹠行の”、“蹠行性”という意味以外にも、“蹠行性動物”という意味があり、その意味するところは“蹠行性動物の姿勢”であった事が分かります。つまり、鳥類でこの言葉を訳すとしたら、“蹠行の様な姿勢”、“蹠行様姿勢”、かかとで歩いている時の様な姿勢”をしている と訳すのが、むしろ分かり易いのだという結論に至りました。
 なにしろ、歩けるはずのない患鳥達に対して、使う用語ですので?

 結論として、誤解を修正する為の、正しく情報を伝えてくれる可能性のある日本語はまわりくどい表記になる事や、従来の“蹠行姿勢”の方にコンセンサスがある(ただし誤解されている)事から、鳥類で同じシチュエーションに用いられていた“plantigrade stance”の異表記、“dog-sitting posture(犬座姿勢)”の方が、こういう時の訳語、我々日本人には適している訳らしいと感じました。
 犬座姿勢とはすなわち、“しりもちをついた時の姿勢”の事です。何らかの言い換えを行っても、ほぼ同じイメージしか頭の中に浮かびません。

 元々の英語とその訳語との間に不一致が無いというのは、とても大事な事ですが、なかなか、そう上手くはいきません。いつも言っている事ですが、適切な訳語、用語としてのコンセンサスとは、この様に難しく、誤解が多いのだという話です。

 

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ま、いいじゃないか(^^;

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