用語解説 爪嘴/テーブルマナーとは?


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 ツメハシという読みを使いますが、これは猛禽の世界に限った言い回しで、インコ・オウム類で、そういう言い方はしません。本来、(猛禽類の)爪やクチバシの手入れの事を言うのですが、広く、(他の鳥種であっても)爪やクチバシの問題について語る時にも、この言い回しを使っています。
 さて、写真(↑)のコンゴウインコにある爪やクチバシ変形は、どういった原因により、生じると考えられるでしょうか?
 
20050815釧路市動物園 (コンゴウインコ1)

 正常なコンゴウインコです(↑)。爪嘴は、適正な長さと形状を保っています。
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 処置には、安全の為に全身麻酔を使用します。適正な長さへの切削と賦形(カタチを与える事)には、相応の切削能力のある工具を用いる事があります。
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 同様の処置は、猛禽類でも実施します(↑)。
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 写真はフクロウですが、正常個体(↑)と比較すると、その変形は明らかです。

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 処置によって(↑)、正常な咬合を取り戻す場合もあれば、継続的なトリートメントが必要な場合もあります。

 こうした異常の出現には、インコ・オウム類については“咬合不正(かみ合わせの問題)”、猛禽類については“硬いモノを食べていない”という説明がされる事が多いのですが、爪嘴について、“正しい使い方がされていない”というのが正しい説明です。
 もちろん、疾病状態にあるなど、他にも理由がある場合があるので、病歴の聴取、各種検査によって、除外診断を経た後に、“爪嘴の過長”は対処されなければなりません。主だった原因には、以下の様なモノがあります。

1,疾病(←肝疾患など、代謝系の問題を持っている場合がある。小型鳥によく見かける。むしろ、除外診断の対象となる)
2,爪やクチバシの成長部位への、現在あるいは過去において何らかの感染症が存在する(した)場合や過去の負傷の後遺症(←よく見かける異常であり、除外診断の対象となる。終生残存する異常)
3,正常なテーブルマナー(採餌行動)の学習の不備(←行動発達の過程において、行われるべき刷り込みが起きなかった。インプリント鳥に多い問題)
4,正常なテーブルマナーを行う機会の不備(←能力はあっても、それが実行出来ない状態で飼育されている。個体差が介在するが、ほぼ飼育管理上の問題。問題行動の原因でもある)
5,正常なテーブルマナーへの妨害(←特に猛禽類では、インプリント鳥の雌で見かける行動。飼い主などの介在によって、正常な採餌行動を完遂する事が出来ないか、異常な行動に置き換わる)

 以下、個別に説明を行います。

1,疾病
 血液生化学検査や各種外注検査によって、問題を明らかにする事が出来ます。変形や過長だけでなく、クチバシの硬度の低下(崩れる)、羽毛の異常(“赤い羽根”などの出現)によっても、異常を裏付ける事が出来る場合があります。

2,爪やクチバシの成長部位への、現在あるいは過去において何らかの感染が存在する(した)場合や過去の負傷の後遺症

足、口腔の損傷20080330 (1)20101130 005
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 写真のケース(↑)は、いずれも猛禽類で、クチバシの負傷を示しています。こうした部位の損傷は、後遺症無く治癒する場合もあれば、一時的あるいは終生残存する変形したクチバシを成長させる事があります。

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 同様の負傷は、爪でも起きます(↑)。このケースでは、比較的良好な治癒が起きましたが、爪の角度などに変位が残りました。

 以上の様な問題は、同様の部位への長期の感染(炎症)によっても発生するので、口腔内の真菌感染症や副鼻腔炎、寄生虫の感染といった既往歴のあったケースでは、後日、クチバシや爪に異常が見つかる場合があります。もちろん、現在でも感染が継続している場合があるので、検査を行う事があります。
→爪嘴という意味では、新たに治療を行っていくと言うよりも、“その結果”出来上がった変形に対応し続けていくケース。終生のケアを必要とする場合も、少なくない

3,正常なテーブルマナー(採餌行動)の学習の不備

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 “テーブルマナー”とはつまり、与えられた食餌を食べ終えるまでの採餌行動の事を言っています。猛禽類ならば、羽毛をむしり終え、皮膚を引き裂き、適量の肉を口に運び、適正な時間内に正しく丁寧な解体を行い、食後、爪やクチバシの手入れを行って“終了”します。
 この時、重要になってくるのは、食餌に対する“刷り込み”です。ちょうど、ネコがネズミを捕まえて食べる行動の様に、適正な時期に学習が行われなかったタイプの食餌には、後日、ソレを獲らそうとしても、食べさせようとしても、上手くいかない事があります。つまり、“金魚を獲って食べても、ネズミは捕らない。獲っても食べる行動が起きない”という事です。
 
 刻んだ肉片のみを与えられて育てた猛禽類や、丸飲みすれば事足りてしまうマウスを中心に与えられていたフクロウ類では、こうした正常なテーブルマナーによって食餌を摂るという行動を学習する機会が、その育成過程において欠落してしまうので、クチバシや爪の過長や変形がよく起きます。こうした事例では、後日、学習によってテーブルマナーを覚える個体も出れば、上手く行かない個体も現れます。

 “食餌への刷り込み”は、正常なテーブルマナーの為に、必要になる学習です。試しに与えた、写真の様な(↑)カラスの片翼が、中途半端な状態で丸飲みされて吐き出されたり、全く処理されないで翌日になってもそのまま放置されているという様な個体では、同じ食餌を白骨化するまで食べる事の出来る個体に比べて、爪やクチバシに違いが現れているかもしれません。
 この時、“硬いモノを与えるべきではないのか?”という話が出てまいりますが、実際には、(軟らかい)解凍した冷凍ウズラを与えている個体であっても、“正しく”爪とクチバシを使って食べる事が出来ていれば、正常な爪嘴を維持する事が可能です。重要なのは、“テーブルマナー”なのであって、与えられた食餌の“硬さ”ではありません。ただし、ある程度の“大きさ”は必要になると思います。

 インコ・オウム類でも、行動学関連のテキストの中で、猛禽類と同様の問題について語られている場合があり(“教える事をしないと、ひとりで遊ぶ(食べる)事も出来ない”)、こうした対策の一つとして、樹皮の付いた止まり木の推奨や環境エンリッチメント、採餌用エンリッチメントの設置と、その使用方法をトリ達に“教える”という事の重要性について、強調されています。
;“エンリッチメント”とは、遊具、おもちゃという程の意味です。動物園施設などで、よく使われている用語です。この場合は、破壊する為のおもちゃや、時間をかけて壊しながら/工夫しながら食べる/食べに行く食餌という事になります。爪嘴を、工夫して器用に使う様に仕向けます)

 行動学のテキスト風の言い回しを使うのであれば、こうした行動を、“教える”事は、飼い主の重要な“任務”であると言えます。
→行動修正のプログラムによって、何らかの成果に辿り着ける場合があるケース。雛の頃からの“しつけ”、“正しい養育”が重要

4,正常なテーブルマナーを行う機会の不備
 アニマルウェルフェアでお馴染みの“5つの自由”の中に、“正常な行動を行う自由(最も正常な行動パターンを表す為に必要になる、空間、施設、仕事の提供によって達成される自由)”というのが出てまいります。そのトリが、本来ならば、正常なテーブルマナーを行う事が出来たとしても、その行動を行うのに必要な条件が整っていなければ、正常な形状と長さの爪嘴は、得られないかもしれません。

 必要な空間、適切な止まり木や床面の提供、常同行動などの“異常行動”でない、そのトリ本来の習性に適った何らかの“仕事”を行わせる事によって、目的は達成されます。猛禽類では、実猟やフリーフライト、羽毛の残った“破壊する”食餌の供与が、その為の“仕事”に該当し、インコ・オウム類では、ひとり遊び、留守番を教える時に用いる環境エンリッチメントや採餌用エンリッチメントが、その為の助けとなります。
 “暇つぶし”にケージを囓り続ける事によって、インコに咬合不正が発生する事態は、避けねばなりません。そのトリにとって、“適正”な食餌なり採餌用エンリッチメントの提供が無ければ、正しいテーブルマナーによって食餌を摂る必要は、失われます。

 適正な飼育施設の概説については、各飼育書を参照してください。
→パターン2の原因となっているのが、このタイプ。既に“問題行動”が発生している場合では、各種行動修正のプログラムが適応されるが、失敗も多い。ただし、飼育の改善等、“なんとかなる”モノについては、出来るだけ対応すべき問題

5,正常なテーブルマナーへの妨害
 筆者の経験では、こうした事は、猛禽類では雌のインプリント鳥に多く、インコ・オウム類では雄のインプリント鳥に多かったのですが、これは、飼育者の性別によっても変化し、トリ達の個体差という事もある様なので、一定はしません。

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 写真(↑)は、雌のハンドレアードのオオタカです。食餌をヒトの見ている前で摂らそうとすると、羽襖、餌鳴き、攻撃といった問題行動が出現し、“正常なテーブルマナー”どころではなく、モノスゴイ勢いで肉のカタマリを丸飲みしてしまい、爪やクチバシを殆ど使わないまま、“食餌を摂る”という行為が終了してしまいます(この行為は、調教によって、徐々に緩和させて行きます)。

 本来、正常なテーブルマナーでもって食餌を摂る事の出来るトリが居たとして、その様子をトリに気付かれる位置で“見ているだけ”でも、“妨害”になる事があります。そのトリは、食べるのを中止してヒトを襲いに来たり、モノスゴイ勢いで一気に食餌を飲み込んで体内に“隠して”しまうので、正しく爪やクチバシを使って食餌を摂ってくれなくなります。
 こうした性向は、ヒトを“ライバル”として育つ事のあるインプリント鳥によく観察されますが、発情によってヒトを“パートナー/ライバル”と認めた場合など、それまでと異なる行動に転じる場合もあり、“問題になりそうな”時期や状況を飼育者が把握しておき、“妨害”を最小にする努力をするのが望ましいと考えられます。具体的には、“食餌中はそっとしておく”という事です。調教などの特別の理由が無いのであれば、その方がキレイな爪嘴に成り易い場合があります。
→飼育者が、“気付かずに”やってしまっている事がよくあるタイプ。改善の期待は、大きい

 以上、ありそうな5つの原因について説明させていただきましたが、あまりにも多様な原因が存在する為、その全てについて説明し尽くす事が出来ません。いくつかの例を挙げましたが、説明自体が舌足らずで、完全とは言えません。いずれにせよ、こうした問題の原因となりうる、正常に爪とクチバシを使用させる為の“正常なテーブルマナー”の重要性とその学習の必要性については、強調させてください。
 

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うわー爪も嘴も伸びてますねー
これじゃあ食事もできませんね。
なんか可哀想
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ま、いいじゃないか(^^;

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