用語解説 impaction。塞栓。閉塞

 “そのう埋伏症”って、どんな病気でしょうか?(『オウムインコ類マニュアル』(学窓社)より)
 先に断っておくと、この訳語は不適切であり、何ら実用性を持たない、誤訳・迷訳の一つです。
 どうやら、この疾病の元々の記載は、“crop impaction(そのうの-)”であったらしい事が分かりました。
 同種の記載、何らかの関連があると思しき疾病には、proventricular impaction(前胃の-)、sour crop(酸敗そのう)、PDD(Proventricular Dilatation Disease:前胃拡張症)という表記・項目が上がってまいります。

 大事になってくるのは、こうした各疾病、状態をよりよく理解する為には、“impaction”と書かれているこの英単語の意味を、正しい、少なくとも説明しているはずの病気の状態が分かる日本語に、訳さなければならないという事です。そうしないと、これらの状態を、関連するかもしれない一つの疾病群として、認識しにくくなってしまいます。

 ふつうに、英和辞典を確認した際に出て来るimpactionの訳語は、嵌頓(医学)、陥入(発生学)、埋伏(歯科)です。これだけでも、“埋伏症”という訳語が、歯の詰め物をする際に使う言葉であり、その訳語の所為で本来の意味が分からなくなってしまっていたという事実が判明する訳ですが、実際の獣医学の分野で、トリの病気として、目的とする疾病の状態を説明するのに、“嵌頓”という言葉を使うのが正しいのでしょうか?
 嵌頓とは、ヘルニア孔から突き出してしまった臓器が、押し戻せなくなった特定の状態を指しており、関連用語が説明する疾病状況のいずれにも、合致する状態が見いだせません。答えは、ノーでした。
 そもそものimpactionとは、“ぎゅっと詰まること”を意味しております。各種のimpactionを調べていく内に、通過する消化管に能力以上の固形物の流入があった際に発生する閉塞と、ソレに付随して発生する各種トラブル(酸敗そのう、PDD)を説明する為に、トラブルを起こして詰まった部位を指して、crop impaction、proventricular impactionと呼んでいるのだという事が、分かってきました。
 同様の使い方で、宿便の事を、英語では“fecal impaction”と記載します。コレはつまり、消化管の中に便が“ぎゅっと詰まること”を説明している訳です。
 こうした用法に関する情報から、そのうないし前胃に、穀物、おがくず、新聞紙、なんらかの繊維や、草(牧草が丸ごと1本出て来る様なケースすらありえる)、動物や鳥類の体毛や羽毛、肉(猛禽類の場合)などが詰まって閉塞を起こす状態に、impactionが使用されているのだという事が、理解されてきました。

 以上の様な考察から、病気の状態と一致するかもしれない用法として、“塞栓(耳垢栓塞cerumen impaction)”という訳語が使用されているケースを探し出す事が出来ました。つまり、“詰まって”いる訳ですね。ただし、この単語(日本語)は血管や尿管など、かなり細い管腔構造の閉塞を説明する為の言葉です。
 こうした異物が詰まった状態から患者を離脱させる為に、詰まった諸々を取り除く為の方法が、各項において説明されていた訳です。
 迷うのですが、“impaction”には、本来、そういう訳は使われていないが意訳として“閉塞”を使用するか、いちおう意味が通じるので“塞栓”を使用するのが妥当であると判断しました。“そのう塞栓”ないし“そのう閉塞”。どちらが、フィットしていると言えるのでしょうね?

 関連文献の範囲では登場してまいりませんでしたが(英文表記の中でも、あまり登場していない様に思うのですが?)、世間で通用している疾病名には、“グリット・インパクション”という邦名もあります。誤用がありますが、“grit impaction”です。“グリッド”と濁ると、別の単語(grid)に成ります。“grit”とは、粗粒の砂岩の事で、鳥類の筋胃内から見つかる小さな石の粒の事です。この場合は、疾病の発生部位は筋胃であり、問題を起こす異物もグリット状の小石や金属、種子に限定して用いられる事の多い用語です。少なくとも、牧草1本が丸ごと出てくる様な状態(例えば、ニワトリの前胃内異物など)を連想する事はありません。
 “impaction”という英単語の訳には、日本語にしづらい背景があったらしく、こういう日本語表記も存在しますが、この疾病名だけでは、一連の、他の部位で起きた各種の問題について説明してくれる言葉としては、機能しません。
 

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ま、いいじゃないか(^^;

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