用語解説 ハンドレアードとペアレントレアード

 “ハンドレアード”とか“ペアレントレアード”と書かれても、聞いた事もないという人は多い。
 読んで分かると思いますが、英語です。その意味するところは、“ヒトが育てた”と、“親が育てた”という意味です。
 本邦では、もっぱら猛禽の流通の中でのみ使われる言葉ですが、本来のあちらの文献なんか読んでいきますと、少々事情が違っていました。

 “feather duster”という、セキセイインコの羽毛に関連した遺伝子疾患があります。この病気自体、その種の本を読むと出てくる事がある一方で、実際に遭遇する事が稀な、記載の中にだけ現れるニホンオオカミの如き病名です。この病名の邦訳が、難しかったらしい事が、過去30年分くらいの記載を一揃い読んでいって、よく分かりました。
 初めの頃の記載は、“羽毛ほこり病”など。読んで分かると思いますが、英単語の直訳です。羽毛ホコリって何ですか?はい。僕も分かりませんでした。病気の説明を読んで、粉でも吹いている事があるのかとも思いましたが、羽毛の形成異常により、セキセイインコとも思えない独特の風貌に成る病気の、その独特な姿形を“feather duster”と呼んでいるんだという事が分かりました。
 この後に出て来る訳は、“羽ぼうき”。なるほど、写真を見ていると、似てなくもない。“ハタキ様症候群”という訳も出て来ました。ここで、英和辞典で、“feather duster”を調べてみるのですが・・・。
 “座箒”・・・なんて読むの?“羽箒, 毛バタキ, 毛ばたき”・・・これは何?ああ、箒とはホウキと読むのですか・・・!
 そう。日本語になってるはずのこれらが何なのか、分からないんですね。
 あちこち調べて、結論は、“はたき”の事を言っているだけなんだという事が分かりました。材料に羽毛を使っている、その道具の形状が似ているというのは、向こうの事情で、素材は何でも良い。厳密には、用途の違いとか出ては来るのですが、日本人が一般家庭で使っている“はたき”です。基本、形態を説明したモノですから、“似ている”という事であれば、後はどうにかなる。著者の意図が、理解出来れば、それでいい・・・。
 ソコまで理解して、ようやく、様々な訳語の意味が理解出来てきました。元々の病名は、まるっきりの誤訳だったんですね。その後も“feather(羽毛)”という言葉に引き摺られて、微妙な訳が繰り返されてきただけ。“ハタキ様症候群”が、一番正しい訳だったんだって、分かりました。写真を見つけてくれば分かりますが、本当にセキセイインコが“はたき”そっくりになるのです。“羽ぼうき”なんて言われると、馴染みが無くて、かえって分からない。

 このように、英語を日本語に直したとしても、ソレが、本来の意味を正確に伝える言葉として、僕たちの頭の中に入ってくるとは限りません。むしろ、誤解を生じる原因に成っている言葉はたくさんあります。おそらく、訳者の先生方も、英和辞典と医学英和辞典を駆使して、こうした訳を作り上げていった事は、想像に難くありません。その弊害とでもいうのか、こうした文献の邦訳を読むと、医学用語や心理学系の言葉こそソレナリですが、その国の風俗文化、肝心の生き物の飼育背景や流通事情に関連した訳が、お粗末になりやすい。“はたき”という言葉が出て来ないというのも、ソンナ事情だったのではないかと思います。今ではインターネットがあるので、この辺の情報の修正が行いやすいのですが、先人達の苦労というヤツです。

 それでも、世間で、それも獣医師が知っておいた方が良さそうな言葉に、ハンドレアードとペアレントレアードがあります。繰り返しますが、“ヒトが育てた”と、“親が育てた”という生き物達を、区別する時に使う言葉で、むしろ概念と理解した方が良い。

 例として上げますが、『オウムインコ類マニュアル』(学窓社)という本の中で、新生子、つまり、雛を扱った章があります。ここで、“親鳥による育雛”、“人の手による育雛”というタイトルが出てまいります。はい。ハンドレアードとペアレントレアードの事です。このページでは他に、EBHRST(English Bred Hand Reared Soppy Tame)という用語の紹介が行われているのですが、“親鳥による育雛”、“人の手による育雛”、“EBHRST”では、内容がつながりません。つまり、2ページほどに渡って書かれていたそのページ全体が、ハンドレアードとペアレントレアードという言葉で説明されていたにも関わらず、別の日本語で塗りつぶされてしまい、やや多彩な、理解に時間のかかる内容に再構成されているのですね。
 じきに気付くのですが、、その様に表記されていないというだけで、他の本を読んだ時には、もうその内容はどこかに行ってしまい、次の本でもまた異なった日本語表記にぶち当たり、それぞれが相関の薄い、再利用しにくい情報に化けさせてしまうという事態が起きてしまっている様なのです。他のテキストとの情報の照合っていうのは、大事な事なのですが・・・。
 これらの言葉は、人工育雛とか自然育雛、人工飼育などという言葉にも変換されている場合がありますが、むしろ、英文表記が異なっていたとしても、日本語にする際にそっち(ハンドレアードとペアレントレアードという“日本語”)にまとめ直した方が、どうやら理解しやすいらしい事に、最近読みまくっていた鳥類の行動学関連の邦訳を読んでいて、気付きました。
 実際に読むと分かりますが、訳した人毎に“本”が出来上がるほど、複雑な状態が生まれています。一致しているのは、医学、心理学系の用語だけです。肝心の“飼う”という部分や“育てる”という部分に、違う章に移る度に(翻訳者が変わる度に)、全く違う分野の話を学習し直させられているかの如き、ばらつきが生まれてしまっているのですね。

 そんな訳で、ハンドレアードとペアレントレアードという言葉について、紹介させていただきました。用語を統一するならば、これらが一番分かりやすい。

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ま、いいじゃないか(^^;

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